誰も教えてくれない出産:4. おっぱい、いっぱいいっぱい
004年07月28日
「痛いっ!もっとやさしくしてぇーん!」
・・・やさしくしてほしい相手は息子である。
あかちゃんがおっぱいを吸う力はものすごく強い。
ためしに十円玉を含ませたら曲げて出しそうなくらい、強い。(鯉じゃないんだから)
この吸引力に冗談で対応できるような余裕が出てきたのはつい最近。
現在、息子とのおっぱいライフ6ヶ月。ここに来るまで紆余曲折。
おっぱい、あなどれない大問題であった。
妊娠中、産婦人科の母親学級の科目の一つに「おっぱい指導」というのがあった。
おっぱいを人任せにせず、自分できちんと管理して、つつがなく母乳育児をすることを学ぶその教室では、「おっぱい体操」というマッサージを習った。
おっぱいって、血液から作られるんですね。
だから、おっぱいをマッサージして血液循環をよくすることが大切なんだそうだ。
妊婦が一同に会して片肌脱ぎ、真剣に自分のおっぱいをマッサージする様は壮観であった。
ああ、わたしたちってホ乳類なのね。
マッサージは真面目に習ったし、家でもお風呂上がりにきちんとやった。
妊娠末期、自分のおっぱいをしげしげ眺めてちょっと不安になる。
ほんとに母乳出るんじゃろうか。まるでその気配すらないが。
おっぱいの出にその大小は関係ないとは聞いていたので、微乳のわたしとしてはひとまず安心していたのだが、自分のおっぱいの先から母乳が出るなんて、ぜんぜんイメージが湧かなかった。
それでも、心のどこかで「ま、産まれたら、そのうちでるんだろう」と楽観していた。
そしてとうとう出産。
あかちゃんは生後1時間ほどははっきりとした覚醒状態にあるらしい。
その後深い眠りに落ちてしまうので、その前に最初の授乳、というかおっぱい挨拶をする。
この時の乳頭とのふれあいがあかちゃんに刷り込まれ、その後の授乳もスムーズにいくようになる、らしい。
産まれてすぐ、さっそくおっぱいを含ませてみたけど、息子はまぶしそうな顔をするばかりで、いっこうにおっぱいを吸おうとしない。疲労困ぱいでそれどころじゃない感じだった。
まあ、ゆっくりいきましょうや。かーちゃんものんきなものである。
その数時間後、母子同室となり母乳育児のスタート、となるはずだった。
しかし、多量の出血のためふーらふらで同室は無理と判断され、息子は新生児室へ。
丸1日離れて過ごすことに。
2日目昼頃からようやく授乳スタート、しかし、おっぱい出ない!
出産して胎盤が出ると、おっぱいを作るのを抑制するホルモンが一気に減り、おっぱい分泌スタンバイOK状態になる。でもそれに加えて、あかちゃんに乳頭を吸われる刺激が必要なのだ。それがないとおっぱいを分泌させるホルモンが十分に出てこないのだそうだ。
吸われなければおっぱいつくられない。つまり、おっぱいを出すにはとにかく何度も何度もおっぱいを吸わせることが大事なんだそうだ。
ところが、わたしはしんどいのをいいことに授乳開始を遅らせ、夜間も3日目も4日目も新生児室に預け、その間息子はミルクを飲まされ、何度もおっぱいを吸わせる機会を逸した。
それじゃ出るものも出ないで当然だったのだ。
それに、入院生活では「何度も何度もおっぱいを吸わせる」ことが自由にできる状態ではなかったのだ。
わたしが入院した病院では、3時間ごとのきっちりした授乳スケジュールが組まれていた。
2:00 5:00 8:00 11:00 14:00 17:00 20:00 23:00、1日8回の授乳。
そしてその授乳の手順はこうである。
《授乳時の手順》
(1)手洗い→おむつ交換→手洗い
(2)おっぱいマッサージ(基底部マッサージ3クール、乳頭圧迫左右5分ずつ)
(3)清浄綿で乳頭を拭き、直接母乳を吸わせる
母乳を吸わせる時間:産後2日目は左右3分ずつ、3日目は左右3分ずつを2クール、産後4日目以降は左右5分を2クール
(4)排気させる(げっぷ)
(5)搾乳する(搾乳した母乳を哺乳ビンで飲ませる)
(6)ミルクを作って飲ませる
(7)排気させる
(8)オムツ交換→手洗い
(9)哺乳記録をつける
終了
これひと通りこなして、軽〜く1時間はかかります。
あかちゃんを触ることすら慣れていないのに、もう大変。
しかも加減が分からないもんだからこの手順をバカ正直に全部やっていたのだ。
それがアダとなり、そのうちだんだんこの授乳儀式が苦痛になってきた。
まだ息子も吸い方がヘタでおっぱいをうまく吸えないし、わたしもだっこがヘタでいいポジションになかなかできない。吸ったって出てないようで、むずがって泣く。
さんざん格闘した後、ミルク作ってのませるとなんとも平和な顔でごくごく飲むじゃないか。
あーもうおっぱいやるのいやになった!
そもそもあかちゃんは機械じゃないんだから、3時間きっかりにおなかが空くわけじゃない。
この授乳タイム以外にもにゃあにゃあ泣くことだってある。
そんなとき新米かーちゃんはおろおろして、次の授乳タイムを祈るようにして待つのだった。
今考えたらアホである。
泣いたらホレ、と、ぽろりとおっぱい出して吸わせりゃよかったのである。
でもその時は言われた通りにきちんとしないといけないんだと思い込んでいたし、あかちゃんのニーズに応えようなんてそんな機転もきかないほどいっぱいいっぱいだったのだ。
それに追い討ちをかけるかのように、おっぱいに異常発生。
おっぱいが、かっちんかちんの石のようになり、熱を出したのだ。
おっぱいをつくらなきゃ!とはりきって分泌を始めたものの、乳管がまだよく通らず、おっぱいが中で溜ってパンパンになっちゃったのである。
おっぱいがカーッと熱を持つ。ボディビルダーの胸筋のようにかっちかち。
あまりのつらさに眠れず、ナースステーションに助けを求めに行った。
「あら〜、もうこうなったら冷やしつつ搾って出すしか方法はないわね」
看護師さんにおっぱいを搾ってもらうのだが、その痛さったら!
陣痛の痛みよりイタ〜イ!
絞り出すようにうめき声が出る。
はあ情けない。こうして人様に乳しぼりされるなんて。
ほんと、おっぱいより涙のほうがたくさんでました。
その後、おっぱいを冷やす専用のアイスノン(Cの形になってる)をあてて冷やすがすぐにぬるくなる。朝までナースステーションの冷凍庫と病室を足をひきずりつつ何往復もした。
おっぱいの分泌を押さえる薬をもらい、なんとかかちんかちん状態を脱し、熱も引いたのは退院する少し前。
そのころには別の問題が発生。
あの、鯉のように強い吸引力で乳首が切れてしまったのだ。
普段、そんなに強い力で乳首吸われ慣れてる人なんかおらんでしょう(おるかもしれんけど)。
そんなデリケートでやわらかい部分が擦り切れ、真っ赤になって傷になる。これがまた痛いのなんの。
シャワーを浴びるのすらもしみて痛いんじゃもん。
ステロイドの塗り薬をもらったけど、息子の口に入るかと思うと大丈夫と言われてもなんだか塗るのもためらわれ、乳首の乾く間もなく次の授乳という状態では良くなる暇もなし。
授乳のたびに息子に含ませるのが恐くて苦痛だった。
・・・はあ。
こんなにも痛くてしんどくてめんどくさくて大変な思いをしてまで母乳にする必要があるのか?
あたりまえの疑問が浮かんだ。
いちいち痛い思いをしておっぱい吸わせたあと、どうせ足らなくてミルク作って飲ませなきゃならないんだもん、ミルクだけなら楽なのになぁ。
退院時にミルク1缶と哺乳瓶をおみやげにいただき、非常に腑に落ちないものを感じる。
やっぱり母乳じゃなくてもいいってこと?
退院後は実家にて、息子との新生活がスタートした。
そこでも頭を悩ましたのがこのおっぱい問題だったのである。
《続く》
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