白大島狂想曲
ほんのちょっと、のぞくだけのつもりだった。
先日から、八丁堀天満屋8階催物会場にて開催中の
「ちょい遊び展& 全国ながもち屋リサイクル着物大祭典」
である。
開店して間もなくだったこともあって、土曜だけど
人もまばら。
いつものスペースの3倍くらいの場所に
あるわあるわ、おきものの数々。あー胸が高鳴る。
入り口近くにはワゴンセール、目玉品の数々。
小紋や紬が3千円やら5千円やらで出ている。
ああ、かつてのわたしなら「質より量よ!」と
血眼でひろげまくったであろう。遠い日々よ。
今はもう少しは賢くなり、上品に拝見しつつ
余裕で通り過ぎてゆく。
かつての花嫁御寮の打ち掛けだったのか、
すばらしい刺繍の黒振袖がかけてある。
これも売り物である。
きものの技術やおしゃれが隆盛を誇っていた時代、
意匠も斬新で晴れ晴れしい。
そっと生地に触れたりもできるのがうれしいところ。
奥には夏物、ああなんという生地だろう、
上布か、塩沢か、風を孕んで着流せば
さぞや涼しげな夏衣装であろうなあ。
そんなよさそうなものも10万くらいである。
古着とはいっても、ギターやピアノのように
中古の方がよい音色を響かせるが如く、
織のきものなどは何度も水をくぐって
得も言われぬ風合いになっていたりする。
サイズと趣味さえ合えば出会いものだと思う。
名古屋帯も、振り袖も、訪問着も、
素敵なものがたくさんあった。
と、
あら。
広げてみる。
これは・・・・
白大島
白いひんやりとした地に細かい蚊文というのか
小さな黒いドットのみ
シンプルで洒落てるなー
あらもう一枚?
これは羽織、アンサンブルだ。
はらり
ひるがえった八掛けに目を奪われる。
薄鼠色の地に友禅で宝尽しの柄が染めてあるのだ!
羽裏ももちろん、同じ柄が染め付けてある。
うひゃーーーーーーーーーーっ!
なんちゅう着道楽!
このきものは一体どんな人が仕立てて着ていたのか。
あらー、いいのみつけられたわね、
まっ!?その八掛け!すごいわね!着てご覧にならない!?
ということでいそいそと美容襟をつけ、
さささっと着つけてもらった。
なんとあつらえたかのようにぴったし!
いつのまにか帯まで持ってきてくださった。
赤い更紗柄の、渡文のふくれ織チックな
昼夜になった洒落袋、これまた好みである。
それがまた映えること。
お店の方も
あらいいわねーっ、ちょっと遊ばせてね!と
売り場を走り回って、柄襟やら羽織紐なんかを一式
どれがお好き?あらこれいいわねー、あ、いいわ
やっぱりこっちよねー
と、たちまち完成。
またね、この羽織の丈が長くてしびれた。
いつのまにか人だかりができていて、
まーこれ白大島ね、いいわねー
こんな小さな蚊文、これお高いわよ
今ね、もう白大島の織元一つになっちゃって貴重なのよ
まーお似合いねえ
などと口々にわいわい言いながらご覧である。
小さなおばあちゃんがちょこちょこやってきて、
ま、そこの泥大島はいくら?8万円?まー、売ろ!
わたしねいっぱい持ってるの、大島
着やしないからもう、いくらいなるの?
あら、白大島、それいくら?まー、売ろ!
とずーっと言っていた。
ああ、売ってくださいな。タンスの肥やしにするならば
誰かが着てあげたほうがきものも喜ぶ。
お店の人はわたしの着付けに夢中で
身丈が小さいとお安くなりますよ、とつれない。
さて、鏡の中のわたくし、絶好調であります。
ください、これ一式!今着て帰ります!!!
と言いたかったが、大島一式26万、帯6万、小物ごにょごにょ
3万×10回ちょいの分割払いか、むー。
まてよまてよ、固定資産税やら車の保険やら
国民健康保険やら、夏までは出費の嵐ではないのか、
今ローンを組む余裕なんてこれっぽっちもないではないか。
かろうじて残っていた理性で脱ぎ、
しかしあきらめきれずにおとり置きしてもらい、
売り場を離れる。
興奮さめやらぬその足で売り場をうろつくが
もう他のものは目にはいらない。
うーうーうー
よし!こんなときには母に電話だ!
わたしの母は冷静で的確で必要以上に毒舌だ。
かくかくしかじかと話すと案の定、
なにを寝ぼけたことを貧乏なくせに
ときた。
でもあたしが見たげると言って電話を切ると
10分でやってきた。機動力に脱帽。
母を待つ間、ケータイで占いをチェック
“ローンを組むような高額な買い物は
家計をひっ迫させるモトです”
チーン。
そして冷静に考えた。
白大島のアンサンブルなんて超贅沢洒落着じゃないか。
冬は寒々しくて着られないし、単衣のまえの
ほんの一瞬しか着る時期がない。
わたしがお金持ちでもうきものもひと揃い持っているのなら
そんなおしゃれも楽しみたいところだが、
色無地さえ持っていないのである。
ちょっとしたお茶席や、帯次第でいいところにも
ちょいちょい酒飲みにも着ていける応用の広さが
今の私が求めるべききものではないだろうか。
だんだんトーンダウンしたころ、母到着。
あんたもう大島あるじゃないの、
まだ色無地あつらえたほうが賢いわよ
母も力強くあきらめシフトレバーを引く。
売り場に戻って、冷静に見てみると、
やっぱりこれは、素敵だけんども、もう
めちゃくちゃ似合ったし好きだし欲しいけど、
買うべきでないかもしれない、
そう思えた。
3人で束になって熱心に勧めてくださるお店のひとを
ふりきって会場を後にした。
後悔はしていない。
でも、今まで呉服屋さんに行って「高〜っ!」
と思っていたけれど、この白大島を思えば、
手が届く、ローンだって組める
などと危険な感覚に。
今からはもう単衣、夏物の時期である。
もう、秋!
ぜったいお仕立てしてやる!!
変な決意を新たにした、そんな一日であった。
(って仕事しろよ!!)
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コメント
まあ!どんなんだろう、見てみたいなあ〜
天満屋ですか。行ってみよう♪
白大島といえば、白大島に好きな柄を描き染めしてもらったものを
先日母から何枚か貰ったのですが、身幅が大きすぎて着れんのです。
仕立て替えして着てネーとか言われ
幾らくらいかかるものか着付けの先生にたずねてみたら、
なんと10万はかかるとか。ひゃー10万!!とんでもない!
だって普段着ですからねえ・・・
お財布か私のどちらかが太るまで、今しばらく箪笥のこやし決定です。
投稿: nori | 2006年4月23日 (日) 午後 10時33分
今は着物にちょうどよい季節なのですよね!
白大島はわたしも憧れ~。でも、諦められる強い
気持ちは大事ですよね。縁があったらまた出会うはず!?
わたしはぐっと我慢したとき、そう思うことに
しています☆
投稿: kyujitukibun | 2006年4月24日 (月) 午前 08時05分
noriさま
こんにちはー。
白大島に描き染め!?お母様も着道楽でらっしゃるのねー!
どんなのか拝見したいなあ。
早く肉襦袢を召されて着て見てくださいな!??
kyujitukibunさま
あー胸に沁みますそのことば。
なんかあきらめたらやっぱり買わなくて正解かも
などと思えるようになるのです現金ね〜
kyujitukibunさまのブログ、いつも拝見してます!
おばあさまがファッションリーダーでいらして
うらやましい・・・
ちらっと拝見するおきものや帯、すてき。
お母様やおばあさまときもの談義をされて
なんだか細雪っぽいわー。
また麗しいおきもの姿拝見したいです♪
投稿: はなみ | 2006年4月25日 (火) 午後 12時21分