季節の茶席菓子展
お煎茶を習っているお師匠、お菓子作りを習われている。
お菓子といってもケーキなどではなく、
いわゆる和菓子。
和菓子が自宅で作られるなどという想像力がなく、
果たしてあのように美しいお菓子が
ご家庭で作ることができるのかとびっくりした。
お稽古の度に目にも麗しいお菓子を出していただき、
小豆を炊いて裏ごしして・・・という
恐ろしく手間のかかる工程を伺い
いっそう美味しさが沁みるのであった。
その、お菓子の先生もお茶の心得がある方で
お茶席でお出しするお菓子も手作りでもてなしたい
という思いが近しく、習われるに至ったそうだ。
榎町、十日市と土橋の電停の間にある
太陽機工本社ビル9階でひらかれた
「季節の茶席菓子展」に伺った。
先生と生徒さん方の作品展。
水無月、いまころから晩夏まで
それぞれの季節を感じさせるお菓子が並ぶ。
ちいさなお菓子に様々な工夫と意匠が込められている。
お、お師匠の作品があった!かわいいなー。
菓銘は「花水」
はなみず・・・?
かすい、かな?
後で伺うと、「はなみず」でよく、
それは稲の花を指す言葉なんだそうだ。
昔から、稲の穂が出て花が咲く頃には水が必要だと、
田の世話をする人々が口伝えした言葉らしい。
白くふっくらとしたお米の花。
まだぴんと背筋を伸ばした穂の波打つ
青田の香りがするような作品。
もうひとつ、こちらは「祈り」。
「何色つくったかな、えーと、それぞれを型で抜いて
逆さまになる絵を想像しながら流したの」
よく見れば、色とりどりの鶴が。
千羽鶴だ。
鶴を折るよりも繊細な作業。
白い器に映えて美しかった。
さてそこではお茶席もあり、お茶をいただくことになった。
お菓子は、お師匠がつくられた「水無月」。
ほぼ徹夜での作業だったそうで
「昨日は150個、今日は200個つくりました・・・」
蒸し器の前で意識がもうろうとしたそうだ。
終わったら寝てください・・・
水無月とは、小豆がちらしてある三角の形をした
むっちりとした外郎のようなお菓子。
これは宮中行事である「夏越(なごし)の祓い」で食べられた
お菓子。
京都では大変メジャーなお菓子だそうだ。
三角というのは氷を表し、
かつて六月に氷室をあけて氷を食べ、
夏の病よけをしたことにあやかった形。
小豆も邪気払いの意が込められている。
昔から日本では赤色に魔を祓う力がある
と考えられていたから、
赤い豆を折々に炊いて食べる習慣があるのだろう。
残り半年の、無病息災を祈るお菓子だ。
茶室の床に目をやると、立方体の置物があった。
香合に見立てたそれは、近藤高弘さんの作品だった。
蓋部分は気泡を含んだ、まるで氷のようなガラス。
下は白い陶器だが、銀滴といって細かな銀のつぶが
一面にきらきらしている。
冷蔵庫から出してきたグラスのようだ。
内部の隅にひときわ大きい銀の粒。
蓋をして上から覗けば、
水の中のような、氷の中のような
不思議な世界がそこにあった。
大仏の頭の「螺髪(らほつ)」のような
突起がきらめいて美しいラリックの水指、
金銘竹という竹で組まれた結界・・・
「こういう見立てなんですよ、
ラリックの水指、きらきらした日ざしね、
赤い棗が太陽、お茶碗の銘が『白雲』・・・」
ここに夏があった。
静かで美しい夏の景色。
こうして日々、季節のほとばしりを解釈して
暮らしているだろうか。
暑い、夏だ、
一言でくくられる季節の中に
花があり露があり風があり、
想像を超えて変化を見せることに
感じているだろうか。
豊かな暮らしを想う、
そういう時間だった。
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