きっとあしたは
わたしはまだ若い。
いやいや、実年齢は37歳で、どう考えても若くない。
それどころか、そういう考えをたしなめられたりもする。
篤姫とか、龍馬とか、小松帯刀とか、30そこそこで天下を動かす仕事をしていたじゃないか、まだ若いなんて言ってられない、むしろ遅いくらいだ、と。
たしかにそうだ。気分はいつも準備中で、大器晩成を待っているようでは世の中の役にたたない。
しかし、
日々、衰えて行く父の肉体を見るたびに思う。
1か月で6キロも痩せ、嚥下も歩行も困難になり、表情も薄らぎ、記憶も曖昧になって、ひとつずつできなくなっていく人を見るたびに。
わたしはまだ若い。
よく動く足も、問題なく働く内蔵も、不安に曇りがちだけどなんとか思考する頭ももっている。
なんとありがたい事実か。来年もわたしはたぶん生きている。
だからわかったような顔をするのはやめだ。まだまだ死ぬまで生きなくては。
不出来で未熟で至らない。だからすべてに示唆があって学びがあって気がつける。
痛いことも、つらいことも、つぎの新しいことのために必要なのだ。
しかし死ぬのもたいへんだ。時間を逆まわしするように子どもになり赤ん坊になり、生まれてくるようにして死んで行く。どうして生まれてきたのかわからないように、死んでいくのも選べない。
死にに行く者のそばでじっと見守っていると、希望が見えなくなる。
そんなとき、息子を見ると心の底からほっとする。
ぷちぷちと音をさせて細胞分裂しているかのような若い命そのものが、笑ってしゃべって遊んでいるのだ。それはこの世の希望そのものだと思う。
ちょびは、最高のタイミングでわたしをいつも救ってくれる。
どうしようもない気分で車を走らせていた時も、
「せーんたくものが、いちにちぶれて、
くーもがながれて、くっしゃみを ひとつ」
と、後部座席で歌い出した。保育園で習った歌なのだろう。
「あーめがあがぁて、みあげてみれば、らんらんらん
きみのきみの、きぶんもはれて、
にじのにじの、そらにかかぁて
きぃとあしたは、いいてんき
きぃとあしたは、いいてんき」
きっとあしたは、いいてんき。
それだけでもう、よかった。
メロディも歌詞もなんだかあやしいが、息子と合唱した。生きててよかった。
いい曲だなあ。
それからいつも、その曲を心の中で歌っている。
ちゃんとした歌詞を知りたくて調べたら、こんな歌でした。
「虹」 (作詞:新沢としひこ 作曲:中川ひろたか)
庭のシャベルが 1日濡れて
雨が上がって くしゃみをひとつ
雲が流れて 光がさして 見上げてみれば
ラララ 虹が虹が 空にかかって
君の 君の 気分も晴れて
きっと明日は いい天気
きっと明日は いい天気
洗濯物が 1日濡れて
風に 吹かれて くしゃみをひとつ
雲が流れて 光がさして 見上げてみれば
ラララ 虹が虹が 空にかかって
君の 君の 気分も晴れて
きっと明日は いい天気
きっと明日は いい天気
あの子の遠足 1日延びて
涙乾いて くしゃみをひとつ
雲が流れて 光がさして 見上げてみれば
ラララ 虹が虹が 空にかかって
君の君の 気分も晴れて
きっと明日は いい天気
きっと明日は いい天気
きっとあしたは、いいてんき。
きっとあしたは、だいじょうぶ。
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コメント
こどものひとことに、きもちがゆさぶられることあります。
何かわかっているんだろうか、と。
きっと何かわかってるのね。
だいじょうぶ。大切な言葉です。
あとは、ぎゅうっって。
あったかいのってきもちいいもん。
投稿: orata | 2009年2月18日 (水) 午後 11時33分
しみじみと「いのちのつながり」を感じました。
子どもって「守ってやらなきゃいけないもの」というのもあるけど、絶妙なタイミングで、子ども本人は意図せず、私たちを救ってくれるんだなぁというのは、時々、感じます。
「虹」の歌、ちょびくんとかーちゃんの合唱、聴いてみたいです。(作者は絵本作家のような…)
投稿: | 2009年2月19日 (木) 午前 12時43分
涙でそうです。
ここ最近、公私ともどもちょっと不安定が続いていて、
気持ちをどこにおいたらいいのかわからなくなる時があります。
でも、明日に向けるのが一番なんですよね。
はっきりと見えなくても、
明日がお天気だと思うこと。
ちょびくんに救われたというはなみ母さんに、
私は救われました。
ありがとうございます。
投稿: ay | 2009年2月21日 (土) 午後 05時33分
orataさま
ほんとね、子どもには「親性」があるって聞きましたよ。
心配してくれるんですよ。泣けますねぇ。
ぎゅううっと、するのがいちばんですね。
○○さま
そう、作曲者は絵本作家さんのようです。作詞者はシンガーソングライターさんで、あの三次・平田観光農園が生んだちびっこのアイドル、ケロポンズとも音楽活動をしているようです。こうして、いろんな人の心をほんとにほどいてくれるなんて、歌のちからはすごいなと思います。
ayちゃん
うんうん、そういうときはどうしてもうつむいちゃうよね。それはそれでいいけれど、明日が天気だと思えるだけで、なんだか大丈夫に思えるってのもいいよね。
もうすぐ春だ。花見だ。世界は美しいぞー。
投稿: はなみ | 2009年2月25日 (水) 午後 06時14分