生クリーム天国
ふわふわと繭の中にいるような日が続いた。
暖かいのか寒いのかよくわからない。
とにかく眠くて、食事のとき以外ずっと眠り続けた日もあった。
でも、食べたいものは次々に思い浮かぶので、そのために食材を買いにゆき、手間を惜しまずつくることに熱中した。
ぴかぴかの天然ブリのあらで、ブリ大根。
柚子をてんこもりにした煮豚。
はなっこりーの青菜炒め。
牛筋カレー。
吟醸酒粕で、甘酒。
豆ご飯。
根菜だらけの豚汁。
レタス炒飯。
ブリカマの塩焼き。
手羽元の梅酒煮。
こんにゃくと大根をお肉で甘辛く炊いたの。
美味しく味わう時だけ生きている気がした。
そして、とっておきの贅沢を決行することにした。
「生クリーム天国」である。
純生クリームを大きいボールにあけ、氷水をあてて泡立てる。三温糖を適当に入れ、ツノが立つまでしっかりと泡立てる。
それを附属の絞り袋に入れれば準備完了だ。
あまおうを洗い、ヘタをとって半分くらいに切って皿に盛る。
そして食パン。
アンデルセンの、長時間発酵ブレッドが最高。焼きたては側が固くて中ふわふわ。
半分にちぎり、ホイップしたクリームを絞り出しのせる。
思いっきり。てんこもり。これでもかと。
真っ白なくるくるの上に、いちごをすきなだけ埋める。
そして、かぶりつくのだ。
ホイップクリームの淡くはかない口溶けを追いかけるように、どんどん絞り足して食いつく。はむっと、溺れるように。
悩みも、心配も、不安も、怒りも、ぜんぶ真っ白くなる。
ボールに残ったクリームを残りのパンでこそげて、天国は終わる。
そうやって甘やかした晩に見た夢。
各地に温泉泥棒が出没している。それは白髪を腰までのばしたおじいさんで、温泉につかるだけ浸かって入湯料を払わず逃げるのだ。
のれんをかき分けて凄い勢いで飛び出してきたじいさん泥棒。
春の日に透けて輝く白髪をたなびかせ、手桶に石けん箱をならしながら、腰にタオル一丁で走り抜けていった。
おとうさんはちっとも夢にでてこない。
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コメント
食べること=生きること、だなぁと読んでいて思いました。
よしもとばななの作品では、「食べる」という行為がとても大事な場面で出てきて、印象的なのを思い出しました。
作った物、うちに持ってきて~!
投稿: こぐまちゃん | 2009年3月 5日 (木) 午前 11時52分
こぐまちゃん、ありがとね。
食べること=生きること、ほんとにそうだと思います。
命を燃やすガソリンだから。食べないと死んじゃう。
しかも美味しくないと生きてられない。
なーんつって、まずいものもけっこう愛しかったりして。
え、つくったもの?さめるから届けません。
みんなで食べにおいで(笑)
投稿: はなみ | 2009年3月18日 (水) 午前 02時14分