人生数え歌
湯につかって上がるとき、歳の数だけ数えて上がるクセがいまだにぬけない。
普段の風呂ではやらないんだけど、温泉で長湯したときなどは、たいてい数えて上がる。
ひとーつ、ふたーつ、みーっつ、
そのとき、「その歳の自分」を思い浮かべる。
ひとーつ、もちろん覚えてないので赤ちゃんの頃の写真
ふたーつ、おひな様の前で写ってる写真
みーっつ、だんだん記憶があるので動画になる
よーっつ、東京に転勤、石神井の借家のあたりの景色を思い出す
幼稚園から小学1年生、また広島に戻って来て2年生、
ああ、今の息子と同い年。
おかっぱ頭で本読んでばかりの小学生
「品評会」というけったいな学芸会をプロデュース
卒業アルバムに手書きでクラス全員の似顔絵書いた6年生
中学入学、担任はそうそう花本先生、鬼瓦みたいな
中2生徒会室で遅くまで遊んで、放送室で好きな曲かけて
中3好きだった子はお引っ越し
高校1年、なんだかなじめずいじめられ、
このころからアウトローが身に付いてった
高2文化祭は和風喫茶「和田屋」、もみじの葉っぱを広島城にとりにいったな
高3「100人に聞きました」セットもクイズも徹夜で作って、楽しかったな、青い春
初めての恋は遠くにいっちゃって、
大学生の夏に死ぬような失恋して
そうそう先日高校の同窓会があったから、このあたりリアルによみがえる
みんな元気なのかなぁ
女子ばっかの大学で、美術部つくって絵を描いて
朔太郎や潤一郎、美しいものだけで生きていたいと思ったな
ハタチ、このくらいでもうのぼせそう。
湯船のふちに腰掛けて、続きをぼんやり考える。
就職活動、自分の将来、自分探しの迷宮入り
入ったところは広告会社
まだバブルの残り香で、サイパンロケとかイタリアロケとか
やりたいことをやりたいとおもえばやれたのに
自信もなく手も挙げず、掃除経理おつかい使いっ走り
思えば惜しい、女神の後ろ頭はつるっぱげ
結婚するのかしないのか仕事ってなんだ生きるってなんだ
悩んでたって答えは出ない
28、ともかく結婚し
やがて会社がメルトダウン
難破船から逃げ出すも、またふたたび倦んだ日々
ぜんぶチャラにしたくて子を望み
32、出産
33、保育園入園、泣いて暮らす日々 息子入院 ぜんぶ投げ捨て
34、息子2さい
35、息子3さい
36、息子4さい
37、息子5さい
38、息子6さい
39、息子7さい
あれ、息子が生まれてから浮かぶのは息子のことばかり
自分の時が止まってる
ようやく40 湯あたり寸前 ざばーっと上がる
体を拭きながら思うのだ。
やがて息子は息子の人生に
それがいくつかわからないけど、やがてそうなる
今はただいとおしい時間なのだ これでいいんだ
やがて60だとか70だとかになったころ、
40から先、なにを思い出すんだろうか。
しかしそんなに数えていたら、のぼせて倒れてぽっくりいくかも
温泉で死ねれば本望だけど、宿に迷惑
せいぜい数えるのは40くらいまでにしておこう。
そのころ思い出す今は、幸せなんだろうか。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント