鼻たかたか
私の鼻は、低い。かつ、先がわれてる。
小さい頃からそうだったと思う。
生まれつきだもん、しょうがない。
母方の祖母は、わたしの鼻が低いのをひどく気にして
「いっつもこうするんで、鼻、たかたか」
といいながら鼻をおもいっきりつまみあげるのだった。
いたいよう
うまれつきの鼻のかたちなんて、つまんだってなおんないよう
幼稚園くらいのわたしは不満だった。
おばあちゃん、と呼んではだめで、「おおきいまま」と呼んでいた。
「おおきいまま」のお母さん、つまりわたしのひいばあちゃんは
「なんとか小町」
と呼ばれるほどの美人だったそうだ。
背は小柄だったけど、わざわざ顔を見に、若い衆がやってくるべっぴんだったそうだ。
その娘の「おおきいまま」も、やっぱりべっぴんだった。
母が言うのに
「小さい頃見よったおかあちゃんは、あの梅ちゃん先生そっくりじゃったよ」
ええ!堀北真希ですか!
若い頃の写真が残っていて、白黒セピアの小さな写真なんだけど、
確かに、二重の大きな黒目がちの、はにかんで笑う美しい娘さんが写っていた。
母も、若い頃相当見合いの話しが来たそうだ。
代が下るにつけ、だんだんぶさいくになる、と言われた。
わたしは、鼻が低かった。
「しおりは、他の目やら口やらはええのに、鼻がひくい。
いっつもこうして、鼻たかたかするんで」
とずっと言われて、鼻をきーーっとつままれていた。
残念ながら、鼻たかたかの成果は出ず、低くて割れた鼻のまま大人になった。
そんな、つまんだくらいで、なおりゃしないよやっぱり
と思っていたのだが、
昨年くらいだったか、
「おばあちゃんはね、ケロイドでひきつって曲がらんかった腕を、
おおきなタライに水を張ったのを両腕で持って、自分で伸ばしたんよ」
と母から聞いた。
祖母は、31歳のとき、広島の原爆にあって、全身にやけどを負った。
美しい顔を、人相がわからなくなるほど焼かれて、
着ていた服はみな焼けとんで、
手足の皮膚はとけてたれさがった。
それでもなんとか、死なずに生きた。
あの、原爆資料館で見た、蝋人形のように
お化けみたいに両手を前にぶらんとさせて
そのとき皮膚が引っ付いて、腕がのびなくなった
それを、自力で、伸ばしたんだと。
それを聞いて、
ああ、鼻くらい、つまんだら高くなるわ。
祖母の言い分が腑に落ちた。
ケロイドの跡をごまかして上手に化粧して
仕立てたスーツを着てお洒落して
恋愛して再婚した祖母。
鼻くらい、たかくできなくてごめん。おばあちゃん。
お盆になると、思い出す話。
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