君がうそをついた
風呂上がりの息子の耳掃除をしてやろうとしたとき、
こめかみあたりにひっかき傷をみつけた。
赤ちゃんの時から、よく自分の爪で顔をひっかいていた。
寝てる間にひっかいたのかな?
・・・そんな歳でもないか。
この傷、どうしたの?
「ああ・・・うーんとね・・・あれ?
えーっと・・・わすれたなぁ・・・」
どこか遠くを見つめ、眉間にしわを寄せて一生懸命「思い出そうと」している。
「ああ、あのう、大休憩のとき、なわとびしてて、なわがびしぃってあたった・・・のかなぁ」
ふーん、そう。
それがウソだと、すぐにわかった。
忘れたんじゃなくて、言い繕ったんだろ?
これ以上聞いてもほんとのことは言わないだろう、とも思った。
この先、何人の女にこんなふうに嘘をつき、すぐ見透かされて、窮地に立つのだろうか。
息子のというか、男の浅はかさを思って気分が沈んだ。
ここのところ、軽く誤摩化すことがちょいちょいあった。
本読み、2ページくらい省略した。
今日は宿題プリントが1枚なしになったんだと言い通した。
えらいペケのいっぱいついた漢字テストが本棚の底からくしゃくしゃになって出てきた。
かーちゃんに見つかり次第、その「穴うめ」相当のことをしなくてはならないので、どうやらあんまり効率のいいものではないらしいとヤツも気がついてきたところであった。
ズルをするくらいならかわいいものだけど、
これほど「隠す」のは、はじめてだった。
なんかショック。
やっぱり腑に落ちず、
ヤツがトイレに行こうとドアを開けた時
立ちふさがって頭を抱えて聞いてみた。
この傷、ほんとはどうしたん?
「・・・・」
ケンカしたん?
「・・・(うなづく)」
怒らんけぇ、言ってごらん。
「・・・大休憩のときー、なんかすごいうるさく言ってきてー、うるさいわーって言ったらー、もっとぎゃあぎゃあ言ってきてー、むししとったらー、たたいてきてー、手があたってー、いたーっていってー、やりかえしてー、つかみあいになってー、」
誰と?
「・・・Sくん・・・」
ケンカしたこと、なんでかーちゃんに言わんかったん?
「・・・・」
かーちゃんが相手に怒鳴り込んでいくと思った?
「・・・うん。Sくんがかわいそうじゃ・・・」
どんだけ凶暴な母だと思っていたのであろうか。
「でー、つかいみあいになってー、けってー、Sくんが泣いてー、ちょびが勝ってー、おたがいにごめんねって。」
この上自分が負けたとわかったらかーちゃんが逆上すると思ってのウソかどうか、それはわからない。
ベッドに入り、部屋を暗くする。
けんかして、いやだった?と聞くと、
「うん・・・だってね、Sくんずるいんよ・・・」
なんだか遊びの中のいろんな理不尽なことに、今回ばっかりは耐えかねてケンカになったことを切々と話した。
そっかぁ。小学生もいろいろたいへんなんだねぇ。
そういうと、息子は声も出さずに泣いて、すすりあげていた。
だんだん、かーちゃんにも言えない、秘密の小部屋が心の中に現れてくる。
誰にも言えずに、ひとりで抱え込む闇がある。
育てば育つほど、それは大きくなり、増えていく。
かーちゃんが、それを無理矢理暴いたところで、きっとどうしようもないのだろう。
息子の学年には何人か「問題児」がいて、教室からふらーっと出て行ったり、暴言暴力、毎日なにかしらびっくりするような「事件」がある。(そういうことは目をキラキラさせて報告する息子)
先生方はその子たちの指導にくたくたなんだと思う。
お母さんたちは心配する。
そんなことでは授業にならないよね、
おとなしい子には目が届かないよね、
もう学級崩壊よね、
他の子までつられて乱暴な口をきいて、
この先高学年になって体が大きくなったら、どんどん歯止めがきかなくなるんじゃ・・・
そう、話せば話すほど心配は大きくなって、
なかには転校させることも考えた親御さんもいるらしい。
そうだよねぇ・・・
だけど
この先、いろんな困難が目の前に転がるだろう。
親が取り除いてやれることにも限界があるだろう。
その困難を、どうすればいいか
知恵を身につけてほしいと思う。
やられたらやりかえせ、とは言わない。
どうしたら、嫌な思いをしなくてすむか、痛い思いをしなくてすむか、
自分で考えて、戦うなり逃げるなりしてほしいと思う。
今はかろうじて、腕の中でべそべそ泣ける距離にいるんだけど、
すこしずつ
手の届かないところに行こうとしている9歳男子。
かーちゃんはせつないけど、見守ろうと思う。
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