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2007年11月 8日 (木)

知を知る

ここのところ相次いで最高学府の先生方にインタビューする機会があった。
本当なら、勉強して獲得するべき知を、
先生から直々に、素人にも分かりやすく
噛み砕いて教えていただくのである。
面白くないわけがない。


一昨日は法務研究科の教授。
弁護士さんでもあったので、裁判というものについてお話をいろいろ伺った。何を争っているのか?性格付けをはっきりさせることから裁判は始まっていく。細かく事実を分解して見ていき、必要な事実だけ取捨選択していく。証拠の細かい部分を追って、それがきっかけとなって勝訴に導くことができたときなど、充実感があるんだと話されていた。
今、法曹養成制度が新しくなって、かつては司法試験合格者が「司法修習」など実務を通じて学んでいたことを、学生のうちに習得するよう求められているのだという。弁護士という仕事も「暗黙知」というか経験値というか、そういうものの積み重ねで深まるものだと思うが、それをより早い段階で教育せよというお達しに先生方は教材と教育方法の開発に頭を悩ませている。


昨日は歯学部教授。抗菌剤の研究をされている。
「抗菌ペプチド」という、要はタンパク質なんだけど、これのいいところは耐性菌ができない(抗生剤だと耐性菌が発生する)し、副作用がないのだそうだ。
表面処理してこの抗菌ペプチドを固定化することに成功し、発表した。
これが実用化されれば、食器を洗うだけで抗菌加工できる洗剤とか、洗濯するだけで服も洗濯槽も抗菌防臭加工できちゃう洗剤とか、お手入れが楽ちんな風呂釜とか、いろいろな商品化の可能性がある。ということで先生のところにはものすごい数のメーカー開発担当の名刺が集まってきたのだそうだ。
普段使ってるものも、こういう研究室から生まれるのかとしみじみ思った。


今日は医学部長。
このままでは、今治る病気でやがて人が死ぬようになるとおっしゃっていたのが衝撃的だった。それほどまでに病院は疲弊している。あと三年で、潰れる病院もでてくるともっぱらの話しだとか。病院が潰れるのはかまわないが、医療を受ける国民が不利益を被るのに、そういう視線がすっぽり抜け落ちていると。先生のお話を聞いていると、どんどん大きなものにさかのぼって、得体の知れないどんよりとしたかたまりに突き当たる。利権や嫉妬やそういうもので浅はかに考える人がえらく高いところにひしめいていて、ざわざわと利己的なはかりごとをしているようだ。明かにおかしいじゃん?と思う声が届かない無力感すら感じる。なんなんだろうこの暗雲は。なんなんでしょうね。そして、「おにぎりたべたい」と書き残して餓死するひとがいる、これが日本。
お医者さん、特に勤務医は本当に大変なんだそうだ。給料も、ある年齢からは大企業に勤める同年代に抜かれたりする。開業医のシャッターを夜中にたたく人がいなくなった代わりに、夜勤も激務だ。
それでも医者として必要なものは「患者が求めているものを瞬時に感じ取る能力」と「毎日2時間医学の勉強をする努力」だとおっしゃった。基礎的なもの臨床的なもの、医学の両輪を日々追いかける気力を維持するのはたいていではないだろう。それを可能にしているのは、人間の本能のピラミッドの突端にある「好奇心」が背中を押しているから。自尊心とか、そんなちっぽけなものじゃ勤まらない仕事だと思った。

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