らしさを味わう
先日、東広島市・西条で行われた「酒まつり」に行ってきました。
今年で6年目を迎えるこのお祭り、年々盛り上がって今年は3日間で22万人もの来場があったそうだ。県外、首都圏からの来場も多いと聞く。
しかしわたし、恥ずかしながら初参加。とあるお招きを受けたので行くことにしたのだった。
広島にはとてもいい蔵がたくさんある。
なかでもこのあたり(安芸西条)は灘(兵庫県)伏見(京都府)とならんで日本三大銘醸地とうたわれている。
「醸華街(じょうかまち)、西条」っていい響きでしょ。
しかも吟醸酒をはじめて醸したのは安芸津の杜氏・三浦仙三郎氏だ。
灘で醸造技術を学ぶが、灘と違って広島の水は軟らかい。そこで研究を重ね発酵力の弱い軟水でもうまい酒をつくることのできる醸造法を確立したのだそうだ。ありがとう三浦さん、おかげでうまい酒が飲めます。
ということで初日の土曜、息子の運動会あがりでJRに飛び乗り西条へ。
駅を降りたとたん、もう酒の香りがただよう。
駅も、蔵通りもすごい人だ。これみなぜーんぶ酔っぱらいだと思うとなんて平和なんだと嬉しくなる。みんな笑顔、行き交う人みんな友だち、そんな感じ。
あちこちですでにのびてる人もいて、救急車のサイレンが止まない。飲み過ぎ注意。
いや、飲み過ぎますよそりゃ。あちらこちらで振る舞い酒。こちらは濁り、あちらは樽酒。小さなコップでくいくいあおりながら、美味しそうな屋台ひやかしてそぞろ歩く。
「あのね、どこか蔵が見たい」と同行の彼女が言う。
はいはいそれではと、老舗・賀茂鶴さんの蔵へ。
秋晴れに似合いますとも白い蔵。
そこでもはいどうぞーとじゃんじゃん振る舞い酒。
おおきなタライで冷やした酒がサーバーでかっぽかぽとリズミカルに注がれていく。
ん?
ガラス棒のストッパーを押し上げると酒が注がれる仕組み。
このサーバーは何??
「ああ、これは昔紅茶を注ぐのに使っとったそうです。ここにこうガラスの器をはめて、氷を入れて冷やせるようになっとるんです」。
紅茶サーバー!なんて優雅な。
こういう大きな蔵には、こうした迎賓用のお宝がたくさんあるんだろうなあ。
蔵の前では、樽酒の菰巻き実演があったり、蔵人たちが「造り唄」を歌いながら樽を担いでそぞろ歩いたり。酒造りのロマンをしみじみ感じる。
さて同行の彼女がまたもやリクエスト。
「さっきね、竹のコップ持った人がおっちゃって。それどこです?って聞いたら、賀茂泉って。行ってみたい」。
はいよろこんでー。
いやするどいね。賀茂泉もほんとに美味いです。
でも彼女は酒のうまさではなく、「竹のコップ」に惹かれたのだった。
竹酒=美味そう
しかしこれはすごく大事なことだなと思った。
賀茂泉には昭和4年に建てられたレトロな洋館・酒泉館があって、その奥が広場になっている。そこで竹酒が販売されていた。
美しく組み合わされた高—い青竹が空にのびる。そのてっぺんから酒を注ぎ、下からサーバーでコップに注ぐ。竹のコップは大小いろいろ自分で選べる。きっちり1合量って竹のコップに注いでくれる。
ただ青竹の中を通過するだけなので、竹筒で煮た酒のように青竹の香りはしない。
だけど見た目が美味い。竹のコップで飲む行為が美味い。
そばでは、竹べらに味噌をぬって炭であぶったものを売っている。香ばしい香りについつい手が伸びる。もろみ味噌にゴマ、ナッツ、あたりめ、生姜などなどを混ぜて摺ったなめ味噌だ。ちょんと載った柚子がたまらん。これで酒が進む進む。
チーズをスモークしていて、あつあつとろとろのをその場で食べさせてくれた。
これはほんとに御馳走だ。
タダで酒が飲める祭り、だからこれほど盛り上がるのかと思っていたがどうやらそれだけではないのだと知った。
普段あまり蔵に行くことなんかないが、祭りのときは気軽に見せてもらえる。
そこで、真剣勝負の酒造りをしている杜氏さんや蔵人さんの姿を見ることができ、彼らからその酒をついでもらえる。
へー、ここでこの酒が生まれたんだー。
いただくまでの物語を感じるからこそうまい。
いいでしょ、美味しいでしょ、お酒、いいでしょ。
蔵の人々のそういう思いに感じてジンとくる。
さてだいぶんいい気分になっていよいよ本陣へ。
前売り1300円、一度入ったら二度と出られない(うそ。しかし再入場不可)「酒ひろば」。
なんと日本全国から900銘柄もの酒が勢揃い。すべて利き酒がし放題だという夢のような広場である。
入り口で全国出展銘柄一覧パンフレットを渡されるが、酔っぱらいの集中力にはつらすぎる文字群だ。各蔵からのひとことコメントに愛を感じる。
さてお呼ばれの席はどこか、あ!あそこだ。
広場のほぼど真ん中にブルーシート。
「吟遊科学者」のN先生がいい感じにゆれていた。
そこには。
圧巻。
学生さんたちが朝7時から並び、先生のチェックされた銘柄をもれなくゲットし、紙コップにその酒の名を書いたものが、全国津々浦々分、あったのだった。しかもどれも朝のうちになくなってしまう人気名酒ばかりだ。
「来年は日本地図の上に紙コップを配置したらいいんじゃないかと思うんですよ」。
学生諸君の滅私奉公、もとい、研究魂に乾杯。
N先生、ご馳走さまでした。
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