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2009年4月 1日 (水)

時間の尺度


先日とある会合に出席した時のこと。
NPO創設記念懇談会ということでちょっとフォーマルな会。知った人もおらずどこに座ろうかときょろきょろしていたら、知人の日本画家F氏の顔が見えたので隣に座る。

F氏とは知り合ってかれこれ20年になる。わたしにとっては日本画家というよりも奇才音楽人だ。もともと兄と知り合い、兄妹で一緒にライブしてもらったりしていた。先日も氏の演奏するテルミンライブを兄と見に行ったところであった。

最近なにしてんの?という話で、いま大学の広報に講師として通ってるんですよ、と話すと、奇遇だね、ぼくもその大学に通ってんの、と言う。
えー、何してるんですか?と聞くと、「ん?解剖」。
解剖!?
「ほら」と、研究生と書かれた学生証も見せてもらった。
つまり、人体の構造を解剖学的に学んでいる、ということだ。
美術解剖学という学問もあるそうだ。しかし現役アーティスト本人が実際に解剖しているというのはあんまり聞いたことがないような。

そして氏は鉛筆をとりだし、会のプログラムの余白にしゅるしゅると走り書きをはじめた。
「・・・・これ頸椎。上から順に書いてる。これが骨盤。ここにヒレ肉があって・・・これは頭蓋骨。下から見ると・・・こうなってる」
そこにはみるみるヒトの骨格が現れていく。
すごい・・・これは・・・現代版の「幽霊図」ができますね。
通ってどのくらいになるんですか?
「6年」。
へー、その成果でなにか作品にされたんですか?
「うん、まだ」。
骨格がすべて頭の中で再現され、360度自在に動かせるようにイメージできるまではね、という。人体の構造は複雑で、もうちょっと早くできるかと思ったら案外時間がかかる、と。
こともなげに飄々と語るF氏のそばで、わたしはひそかにびっくりした。
なにも成果をあげない6年。

一方で氏は、インターナショナルに展開する東京のラグジュアリーホテルのアートプロジェクトに参加し、貴賓室に作品が収められていたりする。
そういったお仕事はプレゼン用に何号の絵を明後日までに、というタイトなスケジュールと条件で展開するらしい。そうやってきちんと実績を積まれている。

「解剖でやりたいのは、花鳥風月じゃないものなんだよね」。

収益をあげることと、死ぬまでにやり遂げたいこと。
ひとりの人の中に、違う時間が流れている。

ついつい目先のことに囚われるわたしにとって、
なにも成果をあげない6年は重かった。
というか、
なにも成果をあげない6年があってもいいのだ。
それはとても勇気づけられることだった。

それをずっと抱いていられるかどうか。
放り投げてしまえばすぐ冷えて、二度と孵らなくなってしまう。
わたしの胸の中に卵はまだあたたかであるだろうか。

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