本気は伝染する
先日とあるレストランのオープニングレセプションに出席した。
広島夜の繁華街のど真ん中、並んだお祝い花にもそうそうたる名前が連なる。
さてなぜそのような華々しい場所にお呼ばれしたかというと、あるTV番組で「満旨イイ」の評価を受け、嵐のような注文が殺到中の抹茶バターケーキ・「しっとり仕立ての抹茶満月」生みの親、お茶の駿河園・大淵社長に声をかけていただいたからだ。
というのも、「ほんまに旨いお茶を出したい」というそのお店のオーナーの熱意に感じ、駿河園『茶の環』がお茶メニューをプロデュースすることになったので、お手伝いさせていただいたのだった。
“抹茶の、贅沢。”『茶の環』は、広島のお茶の駿河園が中心となり、全国の匠たちとがっちり手をつないだことで誕生した。その匠の一人、『茶の環』の命である茶を鑑定するのが京都・城陽の茶鑑定名匠 森田治秀氏だ。
お茶は農作物なので、栽培地域、品種、摘み取り時期などによってまったく味香が異なる。茶葉を摘みさっと蒸して揉み乾燥させた半製品を「荒茶」という。市場で数千種類並んだその荒茶の中から一瞬で素性を見極めて仕入れ、イメージする味と香りを求めて様々な個性の荒茶を合組(ブレンド)し、仕上げの火入れをして「森田の茶」を創り上げる。茶を見極め合わせるその感覚は、17歳でこの道に入り、全国茶審査技術大会最年少優勝、史上初3度の優勝、日本最高段位獲得という確かな40年が培ってきたものだ。
新しくオープンするこのお店にも森田氏入魂の煎茶、玉露、抹茶が揃う。オープンにあたり、敏腕製茶卸問屋のほった園社長とともに京都から駆けつけてくださった。
レセプションがスタートし、オーナーがこのレストランを始めるきっかけ、その経緯を話された。思いもよらぬ出会いがあり、人と人とのご縁が重なり、熱意に応えて人が集まり、そうして形になったお店なのだとわかった。
厨房とホールを仕切るスタッフも一人一人紹介された。みんないい目をしている。
お茶プロデューサーとして、駿河園大淵社長、森田氏、堀田氏も紹介を受ける。
森田氏はとても気さくで快活な方で、関西ならではの人なつっこさで話してくれる。
とはいえ決して饒舌ではなく、しゃべりはあかんねん、でも俺の代わりに茶が語ってくれんねん、と言う。
挨拶を終えしばし歓談、という頃、森田氏は持ってきた荷物からティーサーバーと煎茶をとりだし、バーカウンターで水出し煎茶を淹れはじめた。
これ新式やで、すっごい便利やしええやろ、というそのサーバーは上部が急須になっていて、ボタン一つで下のポットに抽出できる。時間の調節がしやすいのと、1煎目2煎目3煎目をポットで混ぜ合わせることができるので水出しにはもってこいなのだった。
あんな、入れ方は至極簡単、七五三やねん、1煎目は茶葉ひらいてひんし7分、2煎目は5分置いて出す、3煎目は3分でええねん。そしたらその後はまだ茶葉こないに綺麗やし熱いお湯でさっと淹れたらええねん、すきっと爽やかにでて旨いねん、そう説明を受けつつトロリと注がれた水出し煎茶をいただいた。
これは!!
茶杯を持ってきただけで薫る。
一口、甘さと旨味のボリュームに圧倒される。
「森田さん・・・すごい!」「そやろ!」
茶杯を受け取った人々の目が見開き、驚愕する。
なんなのこれは!?
それほどの衝撃的なお茶だった。
飲む人が旨い、と唸る瞬間、森田氏はたまらなく嬉しそうな顔になる。
飲んだ人たちは森田さんのところに群がる。これはなんなのかと。
森田氏はその人たちみんなに話す。旨いでっしゃろ、これが森田の茶ですねん、お茶の甘み、これをしっかり味わっていただきたいんですわ、入れ方は至極簡単、七五三ですねん、
どんな人にも同じように、同じ熱さで話す。
やがて、広島でも気鋭のフランス料理店のオーナーシェフが、茶杯を握りしめてやってきた。
あれ?フレンチでお茶?と意外な気がしたので聞いてみると
「ええ、日本だからと料理に和の要素を取り入れることは僕はあんまりしないんです。でもこれはすごい、お茶としてお出しするというより、ソースとして使えると思ったんです」
和でもなく洋でもなく、その味の奥深さに感動した、と。
森田氏とシェフとの会話は禅問答のようだった。森田氏の話を、シェフはワインに例えたり料理に例えたりして理解していく。その隣で話を聞いている私には会話の御馳走だった。
時間となり会場を後にするころには、先生いかないで〜と手を振る森田ファンまでいた。
いやー、みんなお茶びっくりしてましたね。
「あんなてらもっさん、本気やて。本気。本気のもんは伝わんねん」
森田氏がどんな経歴で、どんな受賞歴があって、最近ではどんなテレビに出てどんな雑誌に出たかなんて、説明なんかいらない、飲めばわかる、と。
最近ある有名雑誌の取材を受けたのだそうだ。ブラインドでソムリエが聞き茶をするからお茶を提供してくれというお願いだった。ほんならと、いつも店で売ってる1000円の煎茶を出したら、審査員みなが「こんなお茶は飲んだことがない」と唸ったのだという。
お茶カフェ(森田氏は京都互福庵という甘党のお店もやってらっしゃる)も取材されたが、そのライターさんに「有名カフェの提灯記事なんか書きなさんな、あなたがほんまに美味しいと思うなら書きや」と話したら、取材後「初心を思い出しました」という葉書が届いたのだそうだ。
名声?有名?それがどうした?それはほんまにほんまもんなんか?
本気なら分かるし伝わる。単純なことや、と森田氏は清々しかった。
広く知ってもらうのが広告だ。知ってもらわなくては商売にならない。
それはそうだけど、有名になったって、くだらないものならいらない。
求められるものは探し出される。
時間はかかるけど、インスタントな作為では太刀打ちできない本物だから。
森田氏の本気がビシビシ痛いほど迫る。
てらもっさん、で、あんたの本気はどのくらいやのん?と。
ぶるぶるっと起動。精進します!ありがとうございました。
○森田氏のお店 → もりた園
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