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2009年12月22日 (火)

楽しい勉強【サイエンスに開眼!?】

 数年前からH先生にひっぱっていただいたのがご縁で、広島大学の広報に人材育成担当の特任講師として通っている。
 肩書きはえらそうだがパートタイマーで、広報スタッフの皆さんとどうやったらもっとええがいにコミュニケーションできるかねと一緒に考え広報活動するのが仕事。

 その中で、煩雑な会議の代わりとなる学内向け広報誌「広大通信」を創刊した。
 その中面は「広大人通信」。
 広島大学は11学部12研究科を擁する総合大学で、つまり「知の百科事典」ともいえる。先生だけでも何千人といて、それぞれがものすごい深度で研究に邁進されている。
 でも、案外隣の研究室はなにやってるか知らなかったり、事務方も先生方のことをよく知らなかったり、それはなんとももったいないことだ。
ということで、毎月8名ずつ「広大の宝」を紹介する「広大人通信」という企画がスタートしたのだった。
 スタート時、わたしも取材に行かせてもらった。医学部、総合科学部、先端物質科学研究所・・・普段絶対興味も持たないし接点もないだろう分野の先生方に、ちんぷんかんぷんながら話を聞くと、それはそれは面白かった。へええええ!すごい、知らなかった、先生それはどうしてですか一体それはなんなんですか。小学生レベルの取材者に目キラキラされて先生方も迷惑だったろうとは思うが、知らないことを知るってのはこんなに面白いものなのかとこのトシになって気がついたのであった。

 そこで、ある先生と出会う。
2007年12月6 日付けの英国科学雑誌「ネイチャー」にその論文が掲載された広島大学大学院理学研究科の寺田健太郎准教授。「広大人通信」の取材で研究室に伺った。

 先生は、カラハリ砂漠に飛来した月の隕石を年代分析し、約43億5千万年に火成活動があった証拠を見つけた。これまでは39億年前に最古の大規模な火山活動が起きたと考えられてきた。でもそれより4億年以上も前に未知の活動があった証拠が見つかったことで「月の進化モデルを再考する必要がある」ということで月惑星科学会に一大センセーションを巻き起こしたのだった。

●広大リリース記事:「月の進化モデル」の再考を促す重要な発見-寺田健太郎准教授(大学院理学研究科)
●BBCニュース「Meteorite dates lunar volcanoes」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7128000.stm
●AFP通信「Man in the Moon is four billion years old」
http://www.spacedaily.com/reports/Man_in_the_Moon_is_four_billion_years_old_999.html

 月がどうやっていつ生まれたか、そんなこともまだ分かってなかったんだ。
 この科学が進んだ世の中なのにねぇ、ふーん
 その程度の知識で取材に行き寺田先生は頭を抱えた。
 「えーと・・・お話中すいません先生、そもそも太陽系ってなんでしたっけ・・・」

 よくおこられなかったものだ。
 ずっこけた先生は気を取り直して、幼稚園児に語りかけるように話してくれた。

 今まで、起源の異なる岩石片や鉱物片がごちゃごちゃに固まった複雑な鉱物組織の年代分析は困難だった。だって「ここ」の部分だけ調べたいのに、今までは溶かさないと成分が取り出せなかったりして「ここ」だけを調べることができなかったからだ。
 月に限らず、地球に飛来する隕石の多くは角礫化(衝突で粉々まぜこぜになっちゃうこと)している。新しい地質と古い地質がごちゃ混ぜになって固まった隕石の分析なんてこれまではお手上げだった。

 しかし、広大には「SHRIMP(シュリンプ)」というイオンマイクロプローブ(年代分析装置)がある。
 その名の通り、エビ反りというか湾曲した構造を持つ巨大な機械だ。
 それは、直径数μm~数十μmのイオンビーム(一次イオンと呼ぶ)を照射し、調べたい「ここ」だけに当ててびしっと削り、削りかすをぶーんと湾曲にそって飛ばしてキャッチ、その質量を量ることができるのだ。(正確に言うと「イオンビームと試料表面の衝突によって発生するイオン(二次イオン)を質量分析計で検出する」となる)
 ぶーんと吹っ飛ばす遠心力で、重いものは外側に軽いものは内側に分かれてキャッチされる。よくできてるなー。
 
 さてこの「道具」を使ってなにをどう調べるか。それが問題だ。

 この月隕石に含まれているリン酸塩鉱物には「マグマからの結晶化時(冷えて固まる時)にウランを取り込み易く、鉛を取り込みにくい」という特徴がある。
 で、ウランは放射性物質であり半減期というタイムスケジュールにのっとって規則正しく鉛に変わっていくことがわかっている。
 つまり、最初は鉛はほとんどなかったのに、時間とともにウランが減って鉛が増えていくってことになる。
 じゃあこの鉱物中の現在のウランと鉛の比率かがわかれば、ウランがこの鉱物に取り込まれた時点(結晶化年代)がわかるんじゃないか。
 研究は推理から始まるんですね。

 そして、この分析手法を用いて様々な月試料の年代分析を行い、推論だった火成活動の絶対年代を測定していく。それは今までの仮説を裏付ける結果だった。
 しかし。
 カラハリ砂漠で発見されたボツワナ産月隕石Kalahari009隕石中に43.5億年前の火成活動の痕跡を発見。それは、今までアポロが持ち帰った資料やどんな推論からも導き出されない、最古の火成活動の証拠だった。

 このことを月惑星科学会で発表した時のこと。かつて学んだ月の教科書を書いたアメリカの科学者が、自分の名を呼んで「よくやった!」と声をかけてくれたそうだ。
「それはちょっと嬉しかったですね」。

 
 そもそも、なんで先生は月とかに興味を持たれたんですか?
 
 はじまりは月ではなく、高校生の時に受けた物理の授業だったのだそうだ。
 指導要領の範囲外だけど、と物理の先生が話してくれたのは「ニュートンの万有引力の式から月や惑星の軌道が楕円であるというケプラーの法則を導く授業」だった。

 「ボール投げたりリンゴが落ちたりってことと、太陽の周りを回る惑星や彗星が全く同じ物理法則で支配されているなんて、なんて美しいんだ!って感動したの」。
 だって、8個の惑星、数十万個の小惑星、その他諸々の小天体で構成されてる太陽系のほとんどが同一平面上をほぼ同じ向きで回転してるんですよ。美しい。水素とヘリウムが主成分の希薄な宇宙空間で、たった2%以下しかない重い元素が濃縮してたまたま地球ができた。不可思議。ほぼ同じ材料物質・時期に惑星たちができたにも関わらず、地球にだけ海が長時間存在し生命が栄えてきた。なんて特異。ね、美しいでしょう、不思議でしょう、だから「太陽系の起源と進化」を解き明かしたいんだ、と。

 太陽系ってそうなんだ、宇宙ってそうなんだ。知らなかった、たまに星空は見上げてはいたけれど・・・
 美しいものを見たい、知りたいと思うのは人の普遍的な欲求だと思う。
 先生は宇宙にその美しさを見つけたのだった。

 取材後、先生を紹介する記事の見出しは
「太陽系、その美しさの謎を解き明かしたい」と書いた。

 ■

 先生はその頃から、「サイエンスカフェ」やりたいと考えていた。
 サイエンスカフェとは、コーヒー片手に市民と科学者がくつろいだ雰囲気の中で科学について語り合う場のことで、1997 年から1998 年にかけて英国とフランスで同時発生的に行われたのが起源とされる。
 理学研究科の先生方が数人、手弁当ではじめられた。数回、お客として見にいき、何回かは裏方として受付に立ったりしてお手伝いさせてもらった。

 で、ある時、そのサイエンスカフェのファシリテーターをやってみないかと寺田先生に声をかけていただいたのだった。
 ファシリテーターとは、促進者、つまり先生と市民の間をうまくつないでははーなるほどと思えるようにする触媒的な役目である。
 あの「広大人通信」の取材時の、わたしの「どちて力」(突っ込んで聞いてくる強引さ)に感心した、ぜひその強力なツッコミでサイエンスカフェを盛り上げてほしいと。

 もっともサイエンスから遠いわたしにそんな役目が勤まるのであろうか。

 などと考えている暇もなく、第5回サイエンスカフェ「GFPってなぁに? 〜今年のノーベル賞から〜下村脩博士が発見した光るタンパク質の秘密と使い道〜」から「聞き手」として参加することとなった。
 
 光るタンパク質!?なんじゃそら!!
 にわか勉強のファシリテーター。先生方のわかりやすいトークのおかげで無事終了。
 その後もファシリテーターをさせてもらい、いろんな“サイエンス”を知ることになる。

「あれ?サイエンスって楽しい?」
 わたしの人生において“サイエンス”がやっと日の目を見た。
 ニガテだと思っていた分野に薄日が射してきたのだった。

(つづく)
 

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