« 楽しい勉強【美味しい珈琲】 | トップページ | 逃げろ »

2010年2月12日 (金)

サービス精神

 母と息子と、分骨した父の墓参りついでの観光で、定期観光バスツアーに乗ってきた。

 「京都御所・大徳寺・泉湧寺」をめぐる1日コース。

 それにしてもバスガイドさんという語り手はすごい職能ですね。
 流れるような物語のエンディングと同時に目的地に到着する。

 今回、北区紫野にある「大徳寺」に行くのが楽しみだった。
 和菓子などに使われる「大徳寺納豆」という特異な存在も気になっていたのだが、一休和尚が再建したり、沢庵和尚がいたり、千利休をはじめ茶の湯の世界とも縁が深いらしい。

 大徳寺はとにかくでかく広く、本殿の他に20以上の塔頭(たっちゅう、本山寺院の境内周辺にある関連寺院)が立ち並んでいる。が、そのうち常時一般公開しているのは4つくらいしかない。たいがい「参拝謝絶」の札がかかっている。謝絶って・・・

 今回は大徳寺本坊のお庭を拝見後、一般公開されている「大仙院」を見学した。

 到着するとまずは昼食。広間に通され、用意されていた精進弁当をいただく。
 お吸い物が配られ、それぞれ熱いほうじ茶をすすりつつお弁当のふたを開ける。
 
 大きな声で気を配って歩かれているお坊さんがいて、ぐるぐる歩きながら
「お、ボクー、しっかり食べやー!大きいなれへんよってになぁ!」
 生麩の田楽、炊き合わせ、白和え、胡麻豆腐、利休麩の炊いたの、
「ボクー、お肉好きか?お肉ないさかいな!精進やしな!ワハハ」戸惑う息子。
 その人が副住職であった。

 このお弁当の中に「梅干しの天ぷら」があった。
「梅干しゆうても甘いよってに、デザート感覚で召し上がってね!」
 ほほー、
 ということでデザート的にいただいてみた。甘くて天ぷらだ。うん。
 それで終わればどうってことなかったのだが、
「梅干しのタネ、歯でかんたんにぽろっと割れるさかい、中の身を食べてみてー。
 あれ、天神さんゆうんやで」

 おお、どれどれ、ぷっくり大粒の梅なので種もでかい。
 がりん!割れた!
 中から白くてでかい“天神さん”がでてきた。ちょっと杏仁のような香りがする。
 うれしくなった。
 そして懐かしくなった。
 ああ、小さい頃父によく割って割ってとせがんだなあ。
 大きな硬い歯でがりん!とやってくれる父の若い顔を思い出した。

 梅干しの天ぷらで、こんな気持ちになるとは思わなかった。

 なんだかふつうの寺とちがうなあ、とぼんやり思っていた。

 食事中、
「はいみなさん、うちではお抹茶いただけるのよね、ぜひいただいてみて!いまならね、このお茶券のお懐紙200エンで買っていただくとね、はい中にこれ、ご祈祷の紙はいってるの。ね!ここにお名前書いて、ね、そしたら毎朝ね、ご祈祷さしてもろてるんですわ。
で!入り口にポストがありますねん、札入れる。それ、血液型別になってますのん。
わたしA型〜ゆうてね、お名前書いていれてもろたら。ね、はい、いかがですかー」

 と、係のお姉さんが一斉に懐紙を配って小銭を集めはじめた。

 元よりお薄がいただけるならいただくつもりだった。が、そんなつもりのさらさらない人々まで、ほぼ全員が懐紙を手にしていた。
 200エンでお茶とお菓子いただけてご祈祷までしてもらえるのなら安いものだ。

「食後は庭のご説明させてもらいますよってに、食べ終わったひとからきてや〜。
あ!キミ!残したらアカン!大きいなれへんで!ゆっくり食べたらええからな」
 と喝をいれられた息子はひたすら食べ続け、広間にはがらーんと誰もいなくなった。
 意地で完食した息子の分の梅干しのタネまでがりんとさせられ、やれやれと庭に向かうも説明に出遅れた。
 じゃあ、先にお茶いただこうかねと母が茶室に向かうと、はいあちらで今説明してますからーとせき立てられ団体に合流させられる。

「はい、言うときますけどみなさん腰掛けてはるとこ、ここ、国宝〜」
 お坊さんの説明ノリノリ。
 国宝を有り難がらせるのでなく、へ〜〜!とワイドショー的に面白く引きつけて聞かせる。爆笑が絶えないお客。
 しかしそんな軽妙なトークで紹介されるその庭も、利休が秀吉のリクエストに応えて即興で庭石に花を生けたというエピソードが残る茶室も、ミロのヴィーナスと引き換えにルーブル美術館に飾られた襖絵も、国宝だったり重文だったり。実はすごい。へー。
 そして
「ええ言葉があるからちょっと聞いてや!」と禅語を紹介していく。

 禅とは超ストイックなものだと思っていたが、わかりやすく、おもしろく、
「ええ言葉やろ〜〜〜〜おかあさん今日これ覚えて帰り!」と屈託ない。

「ぼくの師匠、ここの和尚さん、テレビ出てはった人やで、ほら」
と見せたのは、ミヤコ蝶々と並ぶ尾関宗園和尚のお写真。あー見たことある。むかーし、2時のワイドショーで人生相談してた人だー。
「あのへんに今日いてはるさかい、写真とか一緒にとったら喜ぶし。
 坊主とポーズ、ゆうてな!」

 なるほどなあ。
 参拝謝絶が多数の大徳寺にあって、このお寺は広報室の役割を担っているのかなあ。

 お庭の説明がすむと、ぞろぞろと茶室に移動する。
「はいはい、はいどーぞー、はい、はいどーぞー」
 茶室入り口で大仙院オリジナル茶菓子を懐紙にひとつづついただいて入室。
 部屋の隅の文机におばあちゃんがぽつねんと座っており、ひたすらシャッカシャッカ茶を点てて振る舞っておられる。背後にはお抹茶を仕組んだ茶碗がずらっと並び、横でお母さんがその茶碗に鉄瓶の湯をじゃんじゃん差してゆく。茶筅もなにやら侘びた風情で作法も点前もなさそうで、ひたすらシャッカシャッカ、ようお参りくださいましたとじゃんじゃん出していく。
 客はじりじり前に詰めていき、机にたどり着くときゅーっと一服よばれて退席する。

 お茶は熱々で美味しかった。小指の先ほどのお菓子もニッケ味で旨かった。
 見事な接待だ。
 えーと茶碗はどっちに何回まわすんだっけなんて悩み無用。熱いうちに美味しく召し上がれというもてなしだった。

 懐紙に挟んであったお札に名前を書いてA型の箱に投入して帰った。

 帰りしな、
「・・・ここのお茶を飲んだ秀吉も3度連続して幸運があったというからみなさんにも3度いいことが起こるから覚悟しとくように」という張り紙が。

 やられたー。
 最期まで楽しませる。ザッツ「禅」エンターテイメント。

 お茶の世界にも禅の世界にも、この話を聞いたら眉をひそめる人がいると思う。
 だけど寺見学がこんなにおもしろいと思わなかったという感想を皆にもたせて、よかったね!と送り出してもらえる、ご祈祷より有り難いことじゃないかと思う。

 そこ、楽しんでるー!?
 お坊さんのでかい声が今も聞こえてきそうだ。
 すごいサービス精神。楽しい勉強をさせていただきました。

|

« 楽しい勉強【美味しい珈琲】 | トップページ | 逃げろ »

コメント

If you want to buy a house, you would have to receive the loans. Furthermore, my sister all the time utilizes a consolidation loan, which supposes to be really firm.

投稿: CamilleVaughan21 | 2010年3月 4日 (木) 16時51分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: サービス精神:

« 楽しい勉強【美味しい珈琲】 | トップページ | 逃げろ »