I♥エンスー Vol.4 「お心入れ」のある車
中国新聞 中古車情報サイト「チュレカ」(2011.3末でクローズ)に連載していたコラムのバックナンバーです。
【2008.4.9掲載】
昨年秋のハナシになるが、こんな記事を読んだ。
都会に住む20歳〜30代の女性をターゲットに、
綿密なマーケティングをもとに世に出された「○○(某軽自動車)」。
販売台数は目標をクリアし、売れ行きは好調だが、
その購入者の7割弱が男性。また63%が40歳以上だったという。
狙った顧客とは違うところに消費者がいたわけだ。
車好きA氏にその話をしたところ、
「最近とても気に入ってる言葉があるんだ。
それは、『お心入れ』」。
と言う。ふむ。
「お心入れ」とは、茶道などで
主人が客人をもてなすことをいう言葉だが、
花一輪、炭の塩梅、道具のひとつひとつ、茶に至るすべてを
客のために思案し考え抜き準備するのだが
それをとりたてて言わない。
客の方もその「お心入れ」を感じつつもあえて口にしない。
そういう日本独特の美意識を表すのだと言う。
「例えばね、車のCMとか、ひどいのが多いんだ。
車を好きな人がつくってないことがすぐに分かる。
あのCMを見てエンジニアは泣いてるよなあと思うんだよ。
エンジニアはその思いを語らず、というかCMで表現されず、
しかし車が好きな人はその思いを汲んで共感して買う。
車を売ったり買ったりするのも、『お心入れ』なんだよなぁ」。
この軽自動車のエンジニアインタビューを見ると、開発コンセプトは
「“持つ喜びと使う喜び”をプレミアムとする」
「軽自動車でもメインに置いてもらえるクルマ」
「スタイリングを含めた“オブジェ感”のあるクルマ」
というものだった。
一方マーケティングにより設定されたターゲットは「20〜30代女性」。
したがってCMもWEBもかわいらしい感じの表現だった。
しかし、エンジニアの「お心入れ」に共感したのは
車好きメカ好きの男性だった。
売れ行きがそれを証明している。
エンジニアはきっと心の中で、ちょっとガッツポーズを決めただろう。
(製造と販売戦略のミスマッチという重大な問題があるにはあるが)
一心に熱い思いを車に注ぐエンジニア、
それに応える車好き。
会ったことはなくても、
その車をドライブすることで思う存分語りあうのだろう。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント