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2011年8月13日 (土)

I♥エンスー Vol.32 洗車ブギ

中国新聞 中古車情報サイト「チュレカ」(2011.3末でクローズ)に連載していたコラムのバックナンバーです。

Ensu

【2009.5.1 掲載】

 I♥エンスー Vol.32 洗車ブギ

 ちょくちょく実家に立ち寄る用事が増えて、実家のガレージに愛車のはなみ号を停める機会も多くなった。
 そのたびに母が絶句する。「きたない!!」

 そう、愛車はなみ号はあんまり洗車してもらえないかわいそうな子だ。
 年に1度か2度(たいてい盆と正月)ガソリンスタンドで奮発し手洗いワックス洗車に踏み切るが、あとは豪雨を待つくらいのものである。

 次の瞬間、ぞうきんを持った母が一心不乱にはなみ号の窓やらボンネットやらを拭きはじめる。砂でざらざらのボディを・・・エンスーが見たら気絶すると思う。
 「みてみんさいこれ!」
 鬼の首をとったかのように、真っ黒いぞうきんを高々と掲げてみせる。

 車が真っ黒(あるいは真っ白)な状態で放置されてることが信じられないというのは、母が掃除魔だからというのもあるが、父が車大好きだったからだと思う。

 父は車で出かける前には、トランクから羽根がもくもくついたでっかいハタキ2本で、車体のホコリをさーっと払ってから乗っていた。遠出ドライブをした次の日には必ず洗車をしていたし、数日乗らないときにはカバーをかけていた。

 それは、昔テレビにカバーがかけられていたのと同じ感覚か。

 もっというと、茶道で言うところの仕覆に納められた茶入れみたいなものか。
 大事なものは手入れして美しく保ち、出しっぱなしにせず、きちんと仕舞う。

 あれ?わたし車大事じゃないの?
 生活に欠かせないものだけど、おしいただくようなありがたいものではない。
 家族のようで仲間のようで、となりにそっといる感じ。飼い犬?
 犬だとしたらもっとちゃんとシャンプーしてやらないとかわいそうだ。反省。

 さて先日はあまりの汚さに、その場で洗車命令が下った。
 「そこに出して水かけて洗いんさい!」
 自宅はマンション、共同水栓もなく洗車できない。こりゃラッキー。

 「ちょっと、はい濡れるからこれに着替えて」。
 母の作業着一式に着替える。花柄の割烹着エプロンに肌色のスパッツだ。絶対に知り合いに見られたくない。
 ガレージの外に車を出し、さっそく景気よくホースで水をぶっかけはじめる。
 後から聞いたのだがこれはこれでリッパに駐禁とられるそうなので、近頃はガレージ内で洗車するのが望ましいのだそうだ。

 それにしても高速道路を走った後はどうしてこうもすごいことになるのか。
 走ってるとカツッ、カツッと硬い音がして、フロントガラスに衝撃痕が残る。
 はなみ号のお顔はもう、虫だらけである。
 あたたかな春の日差しに気持ちよく飛んでいると、ものすごいスピードで激突され、一瞬にして殺されてしまうのである。ひどい。そんな大小の虫たちの無念が乾いてかりかりに貼り付いている。水をかけてもなかなか流れない。なんだか気分も沈む。でも負けないわ。成仏してくれ南無南無とブラシでごしごしこすり因縁を洗い流す。

 しかし水遊びにはいい季節である。みるみるピカピカになっていくのも充実感がある。
 はんははんはは〜んと鼻歌まじりに軽快に作業は進み、ついでに車内も清掃、ミニ掃除機で吹い、ぞうきんで拭き上げ終了!
 見て!この美しさ!爽快!掃除が運を上げるって風水の話をよく聞くけどあれはほんとだと思うわーなどと気を良くする。(ならばいつもきれいにしとけと母の声がする)

 ほれぼれしてると姪っ子が通りがかる。実の兄A氏の長女(小学4年生)だ。
 「なにしてんのー」
 うーん?洗車してんのー。きれいになったでしょー。
 「もうおしまい?」
 うん。
 「あのさー、この水滴を拭かないとさー、水玉の跡が残るんだよね」。

 さ、さすがエンスーの子。指摘がもっともすぎる。
 しかしいいのだ。今日は天気もいいからすぐ乾くのだー。

 びしょぬれになった服を着替えて車に戻ると、兄A氏がはなみ号のそばにたたずんでいた。

 きれいになったでしょ!
 「うん・・・よかったね」。
 そう言って立ち去るその手にはなにやらワックスのようなものが握られていた。
 おそらく言いたいことが山ほどあり、こうしたほうがいいことが海ほどあったのだろうが、とっても満足そうなわたしの顔を見て言うのをあきらめたようだ。

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