I♥エンスー Vol.33 木刀みたいな車と鎖がまみたいな車【前篇】
中国新聞 中古車情報サイト「チュレカ」(2011.3末でクローズ)に連載していたコラムのバックナンバーです。
【2009.5.18 掲載】
I♥エンスー Vol.33 木刀みたいな車と鎖がまみたいな車【前篇】
兄A氏が遠くを見つめながらこう言った。
「あの、木刀みたいな車と鎖がまみたいな車の話、聞きたくない?」
ぼくとうみたいな車と鎖がまみたいな車?
なんですかそれは。
木刀といえば観光地の土産物屋でよく売ってるアレですか。
修学旅行におけるヤンキーの定番土産だ。
鎖がまというのは、カマに鎖分銅がついたアレで、
宮本武蔵と決闘した宍戸梅軒が華麗にあやつり、武蔵を苦しめたあの武器である。
木刀 VS 鎖がま
どっちが強いのか。
という話ではないのであった。
「うん、つまりは、2台のスポーツカーの話なんだけどね。
木刀みたいな車っていうのは、Rなんだ」
それは、1989年のデビューから今日まで世界中で愛され続けてきた国産ライトウエイトスポーツカーである。
「20年間も車の開発コンセプトが一貫して残り続けている車は世界でもまれなんだ」
発売当時は2シーターのライトウエイトスポーツカー、しかもオープンカーなんて売れないと思われていた。しかしデビューと同時に大反響を呼んだ。
小さくて200万円前後と値段も手軽なのに、オープンの開放感や「人馬一体」の走る喜びを存分に楽しめる車だったからだ。
世界一売れた2シーターの小型オープンスポーツカーとしてギネスにも載った。
世界中の自動車メーカーが、一斉に真似した。
しかしRが他メーカーに負けなかったのは、『その妥協のない作り』にあった。
「車の運動性の本質と向き合って、真剣なつくり込みがされてるんだよね」。
たとえば、軽くつくる、だけど丈夫につくる、ということ。
オープンカーというのは、車の屋根部分を切り取れば完成、なんて簡単なものではないんだそうだ。 屋根がないということは剛性がぐんと落ちるということ。
オープンでしっかりしたものをつくるには、従来の躯体を利用するという考えから捨てなくてはならない。専用設計をし、一から図面を起こした。
そして誰もが自在にあやつる楽しさを感じられる車をイメージしてつくられた。
コーナーでの操作性安定性を高めるためにエンジンの配置を変え、車のできるだけ真ん中低いところに置いた。その心配りは細部にまで及び、タイヤまで専用設計したんだそうだ。
「そうやってRは木刀みたいな車になった」。
木刀とはなにか。
よい木刀というのは、その木を伐り出すところからはじまる。
長い時間かけて乾燥させ、熟練の職人が数種類のカンナを使い分けて形を削り出す。
ベーシックなんだが、持ち重り、重心、つくり手によってとことん磨き上げられた道具なのである。
そして、持つ者によって意味が変わる道具でもある。
形稽古から始める初心者でも簡単に扱えるものであるし、
剣術の達人が使えば、真剣に劣らない武器にもなる。
Rという車は、リーズナブルで求めやすいし、誰もが楽しく乗ることができる車だ。
しかし乗る者が変われば全く意味が変わる。
木刀を真剣に愛する兄A氏はこう言う。
「20年間同じようにRに乗っているけれど、
その時の自分の技術や体調が如実に現れる車なんだ 」
何でもない道具で、持ち手がいかに深い世界を見ることができるか。
うーん求道的。ドライビングはもはや修行である。
「しかしもうひとつ、木刀とはまるで考え方が違う車がある。
それが、鎖がまみたいな車」。
鎖がまみたいにぶっそうな車とはいったいどんな車なのであろうか。
【続く】
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