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2011年9月 6日 (火)

5つのテーマ、10の花(デモンストレーション編)

 前回からの続き。


 「フローリスト・レビュー ザ・ショウ2011」ファイナリスト、
 山村多賀也×平野弘明による、デモンストレーション&レッスン
 「5themes,10works of flowers」

Flower_2


 二人のレッスンが終了し、PAスタッフとのデモンストレーション進行打ち合わせ。
 今までもDJ交えた花のイベントを何度もやっているPA氏だから、リハーサルはやったことがなかったらしい。が、素人の司会(わたし)が入って状況が全く読めない、ので16:00から通しリハすることになった。お手数おかけします。。。

 それまではひとまず休憩、できるのはわたしくらいで、スタッフ含め皆さんドゥジエム店舗に戻り大量の花材を何往復もして搬入。

 誰もいなくなった会場わきのローテーブルで、ぼんやりしながら今夜のことを思う。

 5つのテーマに二人のフローリストが向き合って花の作品をつくる。時間は1テーマ15分。
 花を作る間は、そのテーマを表現する音楽をDJが鳴らす。しゃべりはいらない。
 開場して最初の出演者トークタイムと、作品完成から次のテーマに移るつかのま、そこが話を聞けるチャンスだ。何を聞いて伝えようか・・・・


 どやどやとスタッフの皆さんが戻って来た。
 こーんな花が控え室に大量に持ち込まれた。

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 16:00〜通しリハーサル。月刊フローリストの大関編集長もはるばる到着。
 オープニングはどうするか、どう登壇するか、なにをきっかけとしてどのようにはじめるか、動きはどうか・・・司会はしどろもどろ。「・・・という質問をするかもしれませんのでよろしく。」

 決ってないことをその場で決めていきながら、参加者たちは徐々に本番の体になっていく。
 DJ Teddy-KUMA 登場。 オープニングはもうすべてクマさんにお願いした。その場で。
「ええっ! わっかりました・・・練習しよ 」
 突然すいませんでした・・・

 ステージ裾に花や花器を準備していると、もう開場時間となる。

 控え室。腹が減ってはデモンストレーションもできないので、スタッフめいめいサンドイッチつまむ。

 山村氏、平野氏、準備は整い、あとは本番を待つだけだ。リラックスして手持ち無沙汰そうなお二人と話す。

 山村氏「いやぁ、今回のテーマ、実は一番最初の“バランス”がいちばん悩んだね。」

 バランス・・・何に対しての、何と何とのバランスなのか・・確かにあいまいで難しいテーマだ。

 平野氏「実は僕もそうなんです。全体を通してのバランスを取る意味で、黄色い花を持って来たんですけどね。」
 山村氏「なるほどね・・・そうかぁ。なんとなくイメージはできてるんだけど、どうしようかなぁっていうのがあってね。」


 今回のこのイベントは、「フローリスト・レビュー ザ・ショウ2011」の直後に山村氏から平野氏に連絡があり、やろうということになったそうだ。今年6月のことだ。
 「東京ミッドタウンの地下駐車場搬入口で声をかけたのがきっかけだったよね。」
 ファイナリストの7組のうち、ほぼ1人で搬入していたのは山村氏と平野氏だけで、なんだかアウェイ感ひしひしと感じていた者同士、気が合ったんだという。

 それから時は流れ、さて5つのテーマどうしようという話になり、平野氏、山村氏、山村氏の奥様アカリさんがそれぞれいくつかテーマ案を出し合ってそこから5つに絞り込んだ。
 「バランス」はアカリさんの案。「これが選ばれるとは思ってなかったんですけどね・・・」

 5つのテーマが決まったのがつい10日前、平野氏が花材を決めて山村氏に依頼し、花を仕入れたのが昨日。そして本番の今日を迎えたのだという。
 まあ、花は生ものですから、前々から用意はできないわけで、それにしても本番に向かう集中というか短期決戦というか、花の世界は恐ろしい。

 本番数分前、しかし山村氏の花のイメージはできていながらまだ揺れているようだった。
 平野氏と山村氏、お互いの言葉に刺激をうけて、バチバチと化学反応が起こっているかのような静かな会話が続く。


 そのころ、会場は満員御礼。クマさんの華麗なトークとDJでかなり盛り上がり、みなさんバイキングで食事をがっつり楽しまれていると聞こえて来た。クマさんさすがー。

 さあいよいよ本番!楽しみましょう!


 クマさんの呼び込みで、フローリスト大関編集長、平野氏、山村氏登壇。
 まずは「フローリスト・レビュー ザ・ショウ2011」について編集長に伺う。
 「なるほどー、で、お二人も応募されたんですね」とふってみるが、山村氏はもはや魂がどっかにいっている。俺に話しかけるなオーラが。
 平野氏「僕は友人が応募するというので、それでなんとなく一緒に応募したんですよね。」

 それって、アレみたいじゃないですか。
 アレ。

 「アレソレ」で会話する司会なんか聞いたことがない。最近めっきり名詞がでてこない。
 「・・・アイドルみたいですよね。」大関編集長わかってる。ナイスフォロー。すいません。
 という至らない司会っぷり全開でトークは進む。

 昼食のときちらっと聞いた話をふってみる。
 「3次審査は東京のスタジオに作品を持ち込み撮影だったそうですが、山村さんは3/10、平野さんは3/11だったそうで・・・」
 「そう、新横浜で新幹線が止まって、もう行けなくなっちゃいました。それでもう、撮影日変わったら花もそろわないし、だめだって思ったんです。」
 しかし大関編集長やスタッフの方々のご尽力で東京から名古屋へカメラマンさんが出向いて撮影し、審査に臨むことができたのだそうだ。

 「大震災のあと、花のイベントを開催するのは大変だったのではないですか?」
 あのころはなんでもかんでも自粛・中止、開催には大変な決断が必要だったと思った。

 「そうなんです。実は・・・」
 1次審査には気仙沼のフローリストも応募されていたそうだ。
 震災後、彼女のことが気になったが安否を確かめるすべもなかった。
 それからしばらくして、彼女から編集部にFAXが送られてきた。
 おばあさまを始めとして、お身内を何名か亡くされているが本人は無事だと、そして
 『1次の作品が掲載されたフローリストをおばあちゃんにみせて、おばあちゃん孝行もさせてもらったので、ぜひ中止せず開催してほしい』という旨が書かれていたそうだ。
 「こんなこと公にすることでもないし、誰に言うことでもないんですが、その時はものすごく勇気をもらいました。」そういうストーリーも、あったのだ。

 ミッドタウンで行われたファイナルステージの様子をスライドショーで見ながら話す。
 それぞれの胸の内に、いろんな想いがあった「フローリスト・レビュー ザ・ショウ2011」。
 山村氏のテーマも「白 再生、リ・スタート 」だった。


 さあ、いよいよデモンストレーション開始。
 「最初のテーマは、「バランス」です。」
 音楽が鳴りスタートした瞬間、山村氏はもうトップスピードだった。
 「山村さんの目線を見てヤバイっ!って思って火がつきましたもん。」
 平野氏もフルスロットル。

 なんだなんだ、いきなり二人とも全開だ。すげー。

 「かっこいい〜〜〜〜」とマイクにぎって第一声叫びたかったが我慢した。
 5つのテーマでいちばん難しかったという「バランス」を作り上げた二人。やりきった感で放心、する間もなくインタビュー。的確に作品を解説する平野氏。さすがです。


 続いてのテーマは「パッション」情熱。
 さきほどの作品に手応えを感じたようで、表情にも余裕が。
 DJ JOE による情熱的な音楽、そのビートにしらずしらず体を泳がせながら、なんとも気持ち良さそうに真っ赤な薔薇を束ねていく。
 むこうの壁際ではクマさんが踊ってる。楽しくなってきたー。

 お客さまは目を皿のようにして、食いつくように穴があくようにご覧になっている。二人の流暢な手元から目が離せない。

 完成ー。実はこのテーマは8分少々で完成している。早い!
 二人が息を合わせてほぼ同時に完成させ、笑顔で見合わす。

 続いてのテーマは「ライン」。

 作品が完成し、ふたりの作品へのコメントを聞いたあと、次の準備が整うまで若干の空白時間があることに気づく。えーと、そんなときには頼れる編集長!どこだどこだ
 暗い会場のいちばんすみっこにいらっしゃった大関編集長をつかまえて、ステージ裾まで来ていただく。
 「あのー、さっきおっしゃっていたあの、カリスマ美容師とかカリスマシェフはいるけどカリスマフローリストっていない、このフローリスト・レビューとかがきっかけでスターが生まれればいい、子どもたちがかっこいいーって思って花屋さんになってくれたらいいって話、おねがいします。」
「あ、わかりました。」

 お話上手な大関編集長に助けてもらって、次のテーマは「日本の美」。

 ジャパネスクな音楽とともに、ステージ上にはでっかい竹が登場。
 平野氏は横一文字の青竹、山村氏は枯れた長ーい竹、いきなり机にあがってトドメをさすかの勢いでぶっさす。その隣では平野氏が青竹の先に真っ赤な鶏頭を細かに埋め込んでいる。
 同じテーマなのに、考え方も方法もこうも違うものなのか。
 二人の対照的な動きを見比べて感心する。

 「日本の美」が完成した。美しい。

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 「あの平野君の百合を入れる数センチを迷う手。しびれますねー」と大関編集長。

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 「作品は花を集めるところからスタートだと思うのですが、今回平野さんは花集めを山村さんに依頼したと伺いました。いわばアウェイな状態でしたが、今日花を見ていかがでしたか?」
 「花の品種名や色など、具体的にお願いするようにしましたから、ほぼイメージ通りだったんですが・・・この山百合は、すごいですよね。」

 平野氏の「日本の美」青竹の先にみっしりと赤い鶏頭そこから木の枝が伸び、山百合がすっと咲いている。
山村氏「山百合は・・・もうこの時期終わっていてなかなかないんです。緯度を上げるしかないと思い、彼女にお願いしたらあったという・・・」
 ご自宅の敷地から美しい山百合を切り出してこられた女性が紹介された。

 花集めには、奇跡が起こることが多いようだ。それもフローリストの実力のうちなのだろう。


 そしていよいよ最後のテーマ「マリアージュブーケ」。

 ステージ中央にはウエディングドレスを着たモデルさんが2人座り、ヘアメイクの久保マサカズ氏がヘアアレンジの仕上げをしていく。
 花のパーツを手渡すと、髪につけ、美しい花嫁が出来上がっていく。

 今回だけは15分間、粘りにねばった山村氏だった。
 「もう時間超えてもやれるだけやろうと思った。わさーっとしたもんだけじゃなく、繊細なものも作れるって見せたかったしね(笑)」
 小さな白い花、グリーン、パステルか水彩で絵を描くように細かく細かく仕上げたブーケ。
 一方の平野氏は白くペイントした木片を糸でつないだ造形物に百合をゴージャスにあしらった。

 ブーケを手にした花嫁が会場を巡る。あんなブーケ持って嫁に行きたいもんだ。

 
 そしてすべてのデモンストレーション終了。チケットの半券で抽選し、作品をお客さまにプレゼント。
 「さて次はパッション、情熱の真っ赤な花束ですよ〜〜〜どなたが胸に抱いて帰られるのか・・・」
 ゴクリ・・・お客さまの目の色がいちばん変わった瞬間でした。

 二人のフローリスト退場、出口にてお一人ずつ薔薇の花を手渡してお見送りしました。

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 興奮さめやらぬお客さま。花と一緒に撮影し、晴れやかなお顔で帰っていかれました。
 あるマダムに「司会とってもよかったわよ。お花にお詳しいのね。」と声をかけていただいて恐縮。花に関しては素人なんですすみません。なんとか無事に終わってほっとしました。

 やり遂げたフローリスト二人と大関編集長、アカリさん、スタッフのみなさんと打ち上げ。ビールと燗酒のうまいこと。
 花への熱い想いを朝まで。愚痴も悪口もない、すばらしいお酒でした。

 「これで僕のフローリスト・レビューはやっと一区切り。」
 ほっとした顔で山村氏は、たぶんもう次のことを考えているのでしょう。
 プロフェッショナルがほとばしる現場に参加させていただいて、ほんとうにありがとうございました。

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