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2011年9月 3日 (土)

I♥エンスー vol.52 似合う自分

中国新聞 中古車情報サイト「チュレカ」(2011.3末でクローズ)に連載していたコラムのバックナンバーです。

Ensu

(2010.6.28 掲載)


 I♥エンスー vol.52 似合う自分


 先日古い友人と食事した。
 お互い1児のハハになり、久しぶりに時間が合ったのだった。

 待ち合わせの時間より少し早く着いて、友人が来るのを店の前で待っていた。

 横断歩道が青になり、向こうから大勢の人が渡ってくる。
 その中にいるんじゃないかと目を凝らしてみたがわからない。
 まだかな、と思った瞬間、見つけた。
 おーい!
 名前を呼んだが気づかない。
 こちら側に渡り切って、彼女もやっとわたしに気づいた。
 ひさしぶり〜〜〜。
 楽しいランチをいただいた。

 いや、実は見つけた瞬間ちょっとびっくりしたのだった。
 なーんか・・・すっかり丸くなっちゃって。
 いや、太ったってわけじゃない。
 昔はもっとこう、触るものみな傷つけそうな、ギザギザハートな感じで、着てるものもどこで買ったのかわからないような、ちょっと変わった、オシャレさんだった。
 もちろん相変わらずオシャレなのだが、ギザギザ感が消えていた。

 彼女の今までをいろいろ聞けば納得だった。
 いろんな波に揉まれた小石のようだった。

 帰りに送っていく車の中で彼女が言った。

 「もうさー、何着ていいかわかんないんだよね。着たい服がわかんない。自分にどんな服が似合うかもわかんなくなっちゃって。
  この前久しぶりに買いもの行ってさ、マキシスカート(丈の長—いスカート)買ったの。帰って気がついたよね、これじゃチャリ乗れんじゃんって。保育園お迎え行けんじゃんって。舞い上がっちゃって、もうだめよねー。」

 大笑いしながら涙がにじんだ。
 あの横断歩道で、彼女もわたしになかなか気づかなかった。
 ってことは、彼女もびっくりしたんだろう。
 なんか・・・すっかり変わっちゃって、とか。まあ、丸くもなってるし、実際。

 自分じゃなんにも変わってないような気がするんだけどなぁ。

 若さが価値だとしたら減価していく一方で、
 だったら補う財産は何だ?

 どうせみんな年を取るのだ。
 若いままではいられんのだ。
 もう少ししたらしわくちゃのバアさんだ。
 それが自然だ。
 変わらないものはきっともう死んでいる。

 「松浦弥太郎の仕事術」(朝日新聞出版)という本に、こんなことが書いてあった。

『履いているときの足元ではなく、どこかで脱いで、あたかも他人のもののように離れた距離から眺めたとき、「ああ、いいな」と思える靴。そんな靴を選びたいと、いつも考えます。
 これは車も同じで、駐車場に停めておいた自分の車を遠くから見たとき「ああ、何だか好きだな」と思える車に乗りたいと思います。』(仕事と靴と車の法則)

 自宅の駐車場に車を停め、窓ガラスに写る自分の姿をしみじみ見た。
 これが今のわたしなのだ。
 鍵をかけて、振り返って車を見た。

 うん、なんだか、好きだ。

 だったら、まあいいかな。

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