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2011年9月 9日 (金)

I♥エンスー vol.58 未来は小さくて自由

中国新聞 中古車情報サイト「チュレカ」(2011.3末でクローズ)に連載していたコラムのバックナンバーです。

Ensu

(2010.12.17 掲載)

 I♥エンスー vol.58 未来は小さくて自由


  夕食後、つけっぱなしのテレビをぼうっとながめていたら、ニュースで電気自動車の特集をしていた。

 各メーカーいよいよ電気自動車の製造と販売に力を入れはじめていると。

 ふーん。

 家電量販店でも展示販売しはじめました。
 「電気屋さんで車を売るなんて新しいですよね。」

 へー。

 特に興味をひかれることもなく眺めていると、なんだかちっこくてかわいい自動車がプーンとこっちに向かって走って来る映像が流れた。

 その自動車は、ご家庭でふつうに充電可能なんですよ、という。
 見ればその車の充電口は、ほんとに見慣れたあの差し込み口で
 まるでコタツかなんかのようなコンセントをぶしっと差して充電するのだ。

 だって電気自動車の充電ジャックって、「これが未来です!」みたいなモノモノしさじゃないですか。それを見た瞬間遠い世界のものだと思っていたが。

 いやぁ、ヒゲ剃り器なみの電気自動車の姿に衝撃を受けた。

 その小さな自動車工房には、フランス政府からも視察団が訪れていた。
 素晴らしい鉄板加工技術を見学しに来たのだという。
 自動車工場といえば、あのゆっくりと動くベルトコンベアを思い浮かべるが、ここにはない。工房の技術者10人ほどが手作業で作っているからだ。
 規模は小さくとも、世界が注目する自動車工房。

 その会社はタケオカ自動車工芸という。富山県富山市。
 自動車工業、ではないのだ。自動車工芸。

 【工芸】美術的な価値を持つ工業製品を作る技術・技法。またその製品(明鏡国語辞典)
 そういう自負が現れた社名。
 なんてすてきなんだとウキウキした。

 だって、手作りのクルマ!ですよ。
 ちゃんと公道を走る自動車が手作りなんて。びっくりした。

 自動車に限らず、そんなものはどこかの大企業が、想像を絶する最新設備で、オートマチックに作られるもんだと信じて疑わないものが、考えてみたらたくさんあるな。

 便利や快適さを求めて、技術は革新していったのだ。
 より安全に、より早く作るために工場の設備もどんどん改善された。
 それのどこがいけないことか。胸を張って誇らしく語るべきことだ。

 おかげで便利で快適で、こうしてだらだら暮らしている。

 しかし思えば、自分ひとりではなにひとつできない日々だ。

 自分には作れないから、作ってもらったものを買うしかない。
 自分ではできないから、できる人にやってもらって対価を払うしかない。

 なんて依存人生。

 世界中のコンサートのライブ配信を自宅で見ることができるようにはなったけど、
 歌う楽しさはカラオケボックスがないと体現できない。

 たき火を囲んで歌い、踊り、飲んで食べていた遠い記憶の灯が
 体内に消えかかっているような気がしていたんだけど。

 その灯を消すかどうかは自分次第なのかもしれない。

 ちいさな自動車工房だって、電気自動車ちゃーんと作れるよ。
 工芸品のように、役に立って愛される自動車、作れるよ。

 そのちっちゃい車は軽やかに、そう言いながら走っているように見えた。

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