サイエンス少年少女
11/3(土)、広島大学理学部・大学院理学研究科主催「中学生・高校生科学シンポジウム」という催しの司会をさせていただいた。
学内は、同時開催のホームカミングデーや大学祭でにぎわっていた。
今回で15回目となるこのシンポジウムは、中学生・高校生のみなさんに自然科学の面白さ、研究の楽しさを実感してもらう機会としてはじまった。回を重ねるごとに参加も増え、今回は43件もの研究成果発表が行われた。
そういう伝統ある行事の司会進行である。
きっちりとした進行台本があった。
読んでみる。かたい。
これならば、鼻濁音もままならない寺本がしゃべるよりも、
若く華やかなフリーアナウンサーが美しい発声でやったほうがよい。
だが、白羽の矢がささってやらせていただくのならば、
寺本にやらせてみてよかったね、と思われるポイントはどこだろうか。
高校生たちは、楽しんでいるのだろうか。
要領を得ないまま、午前中のポスター発表からスタート。
どのチームも、課外時間を費やして、一生懸命考えて実験してポスターに仕上げてる。
「いろんなポスターがありますから、遠慮せずにどんどんまわって、発表を聞いてくださいね」
などという注意喚起アナウンスなんか不要だった。
みんな熱心に、他校のポスターの前に立ち、耳を傾け、質問をし、深く頷いて次のポスターへ。
ためしに説明を聞いてみる。
「素因数分解について考えます。まず、この数とこの数はたがいに素です。・・・」
数学かあ。なんか高校生の時に名前だけ聞いたことあるけどさっぱりだ。
「なにか質問はありませんか?」
聞いていた学生さんが鋭い質問をする。しばらく相談して、回答する。
あのう・・・ わたしもおそるおそる質問してみる。
互いに素、ってどういう意味ですか?
このおばはんアホや、と思われるに違いないと思ったのに、
そんなことは微塵も思わず(たぶん)
「あっ、それはですね、1と自分自身以外に、正の約数をもたない、ということです。
たとえば、16と24だとどうでしょう。」
あ、2で割れます・・・
「そうですね、ですからこの15と32は互いに素と言えます。」
はーー、なーるほどー。
おばはんが解ってくれた、その瞬間、高校生は世にも美しい笑顔を見せてくれた。
自分の説明で、人が理解し、新しい見地を得る。
それがこんなにも嬉しいことだと
純粋な歓びで輝いていた。
わたしはなんとも晴れやかな気持ちになった。
そりゃ指導教員に言われるがままに研究を進めてもいるだろう。
意味を見いだせないまま今日に至ってもいるかもしれない。
でもそういう、千本ノックみたいな日々の中に、
こういう、素直な気持ちで「すごい」とか「わあ」とか「やったあ」とか
繊細に感じながら成長する若い命を、心からいいなあと思った。
教室を移動する時に、「ポスター発表どうだった?」
と、聞いてみた。
「やっぱり違う学校の人から質問されると、違う考え方がわかってとっても刺激になります。」
「いろんな意見を聞くことができて、勉強になりました。」
いやあんたたちよくできた子だねぇ。。。
午後の口頭発表の前は、お楽しみランチタイム。
と同時に、研究科公開。学内のいろんな施設が公開されてるから見学できますよ、
その他にも、ガラス細工や苔玉作り、海の生き物に触れたり、サイエンスカフェもやってるよ。
とアナウンスして休憩。
いよいよ午後からは壇上での口頭発表。
緊張からか、会場はぴーんとしてる。
最初のチーム。いやあ、しっかりしたプレゼンです。
すごいなあ。
では先生、講評をお願いします。
なにせ時間がないので、進行役はちゃっちゃとまわさなくてはならない。
けれどもいつもの調子で「いやあ、メキシコ湾の原油流出もこのアイデアで解決してみたらどうなるか、実際に計算してみるなんてすごいですねぇ。よく考えつきましたねぇ。」などとのんきにコメントする。
しかし、高校生、しっかりしてるなぁ。
自分高校生のときこんなじゃなかったよなぁ。
どう育てたらこういうお子になるんだろうか
などと考えながら発表を聞く。
順調に発表がすすみ、あるチームの発表でのこと。
先生の講評が、ちょっと厳しいものだった。
ただ、その中身はとても真っ当で、そうだよなあ、という納得いくものだった。
高校生だから、お粗末なものでもがんばったねと褒めてやらないといけないというのも違う。
腫れ物にさわるようにやさしくしてやるのが彼らのためでもない。
それはそうなんだけど、壇上の彼女たちは今にも泣きそうだった。
あの〜〜〜ですね、そう、タイトルってのは大事なんですよね先生?
現役研究者の先生方も、論文のタイトルには命をかけてるって話、伺いました。
サイエンスだネイチャーだってのに投稿する時には、査読者はもう、ものすごい量の論文をさばかなくちゃいけないわけですから、タイトルと概要で「お?」と思わせないといけないわけです。
もう、キャッチコピーさながらに、タイトルに精魂込めるそうですよ。
会場の険しい雰囲気が、へーっていう感じに変わった。
ついでにちょっと面白い話をくっつけて、おしまいにした。
それが、壇上の彼女らの気持ちを和らげたかどうかはわからない。
でも、
とっさに、過去のいくつものサイエンスカフェの、本番や打ち合わせや打ち上げの飲みの席なんかで聞いてきたいくつもの無駄話が、こういうときにひょいと飛び出してきてくれた。
わたしは知らず知らず、育てられてきたんだなあと思う。
すべての発表が終わり、科学奨励賞の授与。
これは「よくがんばったで賞」ということで、参加チーム全員に授与される。
一位は二位は、という話ではないので、そう歓ぶという感じでもなく、壇上でどう振舞っていいか分からない様子だ。
ほんとにみんなよくがんばった。
青春の日々を研究にぶつけてがんばった。
えらかった。
最後くらい、笑って帰ろうよ、
そう思ったので寺本は余計なことをした。
副研究科長と賞状を手に記念撮影、
いきますよーーーっ、ハイ、サイエンス!!
ありゃ、サイエンスぅ、じゃ笑顔になりませんね、
ほいじゃ、シンポジウム!あ、一緒か!
そこからは、その研究チームにちなんだもので適当に叫んだ。
はい、つばめ!
はい、お堀!
はい、クラゲ!
何がなんだかわからないが、爆笑が起こりはじめた。
次はこのおばはんが何を言うのか、予想して
はい、雨ふるな!!
「そうきたか〜〜〜!」
と歓声があがった。
高校生らしい、ぎゃはぎゃは笑いとくしゃくしゃな顔が見れた。
よかった。
無事、終了。
帰り際、寺本の前を通り過ぎながら
「さよならー!」
と口々にあいさつしてくれた。
片付けて、アンケートをぱらぱら見た。
おもしろかったです。
よかったです。
ためになりました。
その中に、よれよれの字で
「司会のおねえさんに感銘をうけた」
とあった。おねえさん、君のそのセンスすきやわー。
もっとうまくできたかも、と終わってひとり反省する。
反省の積み重ねが、寺本をつくっている。
関係各位、ありがとうございました。
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