ノートに書けば
サイエンスカフェなどでお世話になっている、広島大学理学研究科のI先生のお見舞いに行った時のことだ。
先日開催された「中学生・高校生科学シンポジウム」、 I先生はずっと準備に奔走されていたから、本番当日を見られなくて残念だったに違いない。
高校生たちの様子はどうだったか、司会をした寺本は大丈夫だったかとずいぶん気にされていたよと伝え聞いていたので、そのときの様子をお話しした。
そうですかそうですか、それはよかったと目を細めて聞いてくださったが、急に、
「ほんとうは、このことが伝えたかったんです、高校生たちに・・・」
と、がさごそノートブックパソコンを開き、あるパワーポイントの資料を開いてみせてくれた。
「彼らははたして、実験ノートをつくっていたのでしょうか。
実験をして、結果をまとめて発表することが大事なのではないのです。
そこで何がわかったのか、わからなかったのか、何に気がついて何を考えたのか、記録を残すことが大事なんです。それが、唯一、彼らの財産になるんです」
ノートが、財産になる、ですか。
記録ノートと言えば、F先生を思い出す。
F先生は休日でも誰かと談笑してる時でも、そのノートを手放さない。
雑談をしていても、おっ!という顔になってカバンからノートを取ってきて、ざざざーっとなにかを書き付けて「ほんでほんで?」と話しに戻る。
そのノートを書くようになったきっかけと、そのノートと共に研究してきた道のりの話を聞く機会があった。以前、「F先生のノート」に書いた。
そういえばF先生も、すんごいノート書いてらっしゃいましたよねぇ。
「そう、F先生見て、高校生に伝えないとと思ったの。」
F先生はエンジニアのお父様に言われて、ふーんそんなもんかな、って始めたっておっしゃってましたね。“仕事は違うが、考えてアイデアを練るのは一緒だからおまえもノートをつくれ”って。
「そうなんです。そうやって言って気づかせてくれる人が必要なんです。だから、伝えたかったんです。」
USBを持っていなかったので、ケータイで写真撮って帰ってきた。
テキストに書き出してみる。
■実験ノートはなぜ必要か
・人間はすべてのことを覚えておけない。
・ 記録する習慣をつけることの重要性。
・ 実験は1回限りのもので、全く同じ実験を再現することは、ほとんど不可能。
・ 実験中に気付かないことでも、記録を見て新しい発見をすることがある。
・ 1人では気付かないことも、共同して実験した別の人が気付いていることがある。
■理想的な実験ノート
自分にとって「このノートは失ってはいけない、粗末に扱ってはいけない大切なもの」と思える形・色・大きさ
・ A4版
・ できればハードカバー(硬い表紙)
・ 方眼入りでページ番号が付いている。
だから
・ レポート用紙は報告用紙であって、実験ノートには向かない。
・ ぺらぺらで粗末に扱いやすい。
・ すぐにどこかに散らばって、他のものに紛れやすい。
・ 順序がわからなくなる。
■実験ノートに書くべきこと
・ まず、いつ、誰と、どこで、何をテーマに。
・ 日付、場所、課題名(天候も記録する方がいい)
・ 実験するときに、大切であると思うことを、何でも記入。
・ 実験道具のスケッチや文章での説明、感想、取り扱いに注意することがらや、安全上の注意、一緒に実験した人の意見、発言などなど
■実験ノートに書くべきこと(具体的に)
・ 実験をはじめたら、時刻をまず書く。
・ 実験によってはどちらを先にしたかが重要なことがある。
・ 実験データを取ったら、必ずすぐにノートに書く。
「覚えておいてあとでまとめて」や「そこらにある適当な紙に書く」は絶対にしてはいけない。
・ データを表にする場合に定規は使わない。
理由:無駄な時間を使うことになるし、自分のためだけなら、そんなことをする必要はない。
■実験ノートに書くべきこと(グラフや計算など)
・ グラフを書きながら実験する習慣をつける。
・ 方眼ノートを使う意味
・ 定規を使わない。縦横の軸もフリーハンドで書く。
・ グラフにデータを書きこむ(プロットするという)ときは、小さな点を打つのではなく、○か×で。
・ 大切なのは、どんな目盛りをつけるか。
・ 間違っても消しゴムを使わない。
・ 汚れて見にくくなったら、別のグラフにする。
・ 計算もすべてノートに書き、間違ったら、「まちがえた」と書いて、そのまま残す。
■いろいろな注意
・ 何でも書くという習慣をつける。
・ ページの使い惜しみをしない。何ページ使ってもよいというつもりで、大きな字で。
・ きれいに書く必要はまったくない・・・消しゴム不要。
・ 鉛筆よりも黒か青のボールペンを使うこと(コピーをする必要があるときに、鉛筆は見えにくくなる。)
・ 注意の必要なところは赤でマークを。
・ 過去の記録を、いつも読み返す習慣をつける。
・ 自分なりの実験ノートのスタイルを確立する。
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身近に実験をする中高生がいたら、どうか伝えてほしい。
このページをコピーしたり、よそにアップしたりしてもかまいません。
実験をしない中高生も、
大学生だって、
社会で仕事をする自分たちだって、
自分のノートが必要なんだと思います。
こんなことがあった。
こんな人と会った。
こんな話をした。
自分はこう感じた。こう思った。
それはこうじゃないかと考えた。
でもそれはよくわからない。
ただ、記録しておく。
それを、数日後、数ヶ月後、数年後の自分が読み返す。
新しい感じ方があるはずだ。
違う色のペンで上書きしてもいい。それが思考の深まりだ。
F先生やI先生から習った、ノートの書き方。
人生を自分でハンドリングして、
よりよく生きていくためには、誰にも有効な方法だと思います。
余談ですが、
寺本も小学生のころからノートに書いていた。
落書きだったり、日記だったり、
夢や野望や落胆や失恋や
覚えたての仕事の内容や、ルールやマナーや
色も形もばらばらなノートがごっそりあった。
ある日、そのノートを読み返してみた。
仕事に倦んで、結婚にとまどって、子どもを産むか産まないか、
ぶすぶすめそめそと不安ばかりが書き付けられていた。
そのころの自分に言ってやりたいことが、なぐさめてやりたいことが、いっぱいあって泣けてきた。
その中に、
「わたしはすなり、いつかすなり」
書きなぐった言葉があって、
ああ、スナリ
独立してやっていくときの屋号にした。
そして、
それまでのノートをぜんぶ捨てた。
成仏してほしいと思いながら捨てた。
スナリという言葉ひとつだけ残して、
また新しいノートをつくった。
F先生のノートのように
I先生が教えてくれた要領で
今も書く。
もう、捨てません。これはわたしの財産だから。
ノートに書けば、それが財産になる。
多くの方々とシェアしたい知恵だと思いました。
I先生にかわって、伝えたくて書きました。
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コメント
大学の関係者です。
研究実験ノートで検索を書けていた際にたどり着きました。大学生を教育する立場として、実験ノートの書き方の指導をしています。
記載内容を是非参考にさせていただきたく、コメントを残しました。必要でしたら当方の所属も明らかにさせていただきたいと存じます。
是非許可していただきたく、コメントを残した次第です。
投稿: bin | 2014年4月 8日 (火) 10時58分
binさま
ようこそ検索してくださいましてありがとうございます。
実験ノートをちゃんと書いてほしいというのがI先生のご本意ですので、ご指導される方に利用していただければ本望です。ぜひお役立てくださいませ。
参考までに、どちらの大学かこっそりお教えください(笑)
メールでも結構です tera@sunari.net
学生の皆様にもよろしくお伝えくださいませ。
投稿: sunari | 2014年4月 8日 (火) 13時18分