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2013年2月27日 (水)

器でかわる

 先日のNHKカルチャーセンター「おいしく淹れよう中国茶」は、
 「器による味のちがい」というテーマでやりました。

 「器は茶の父なり」 (茶の母は水だろうか)
 茶を美味しく淹れるためには、茶器の選択が大事といわれています。

 中国茶を淹れる器といえば、「宜興茶壷」ですね。
 紫砂とか朱泥といった、鉄分を多く含む土から焼かれた「炻器」(せっき。陶器と磁器の中間的な性質を持つ)です。
 こういうやつですね。
 
Photo

 この紫砂の茶壷がお茶をおいしくするのは、胎土に細かい孔があって、そこに雑味成分を吸収するから。また、吸収した香り成分を放出するため味わいに厚みが出る、あるいは、味わいが持続するとも言われております。
 そのかわり、この茶壺はこのお茶専用、と決めたほうがよいとも聞きますね。高山茶用、岩茶用、鉄漢音用、鳳凰単叢用・・・たくさんいるじゃないか(嬉々)
 そうやってこのお茶にはこの子、と使い分けるのも楽しみのひとつなのでしょう。

 一方、磁器の茶器は表面がガラス質なので、匂いも吸収したりしない。ハイターにつけて茶渋とってもOK。なので、1つあればどんな種類のお茶でも淹れられる万能茶器、と言われてます。


 ほんまかいな。


 ものの本にはたいていそう書いてあるし、そんなもんかなと思ってそうしてるけど、改めて考えると、どうなのかなという思いが頭をもたげる。

 ほんじゃ実験してみましょう。

 「せんせ、理系?」
 いえー・・・ばりばりの文系です・・・ 
 でも、やってみないとわからないですもんね。


 まずは、台湾高山茶(梨山、海抜2200m)。

Img_3854

 左が、台湾の作家さんの紫砂茶壺。裏に「辛巳」とあるから、もう12年のつきあいか。
 右は磁器の茶器。ほんとは煎茶点前用です。

 湯の量も、茶の量もほぼ一緒、
 湯をそそぎ、タイミングを見計らって同時に茶海に注ぎ出します。
 両手で、2丁拳銃状態。

 「はぁ〜〜いい香り!」

 見た所、右の磁器のほうが水色(茶の色)がうすい。
 飲み比べても、右の方が味も香りもうすい。
 その理由は1煎目を淹れたときにわかっていました。
 右の方が早く注ぎきれる。
 左の紫砂茶壺は、細く長く注がれる、つまり、茶の葉が湯につかってる時間が右よりもすこし長いのです。

 3煎目は、右の方を若干長く間合いをとり、水色を同じに淹れてみました。

 「あらぁ、」
 「色は同じなのに、味がちがうわぁ」
 「ほんと、なんか磁器の方が浅いというか・・・」
 「ねぇ、香りもちがう」

 いやぁ、ここまで違うとは思わなかった。
 なんというか、二つがぜんぜん違うお茶のようだった。
 やっぱり紫砂茶壺で淹れた方がうまいのよ。

 「せんせ、やっぱりわたし紫砂茶壺買おう!
 ここまで違うんなら、ほしいわー」
 ねぇ、びっくりです。

 まてまて、焙煎の浅い、高音のような味香りの高山茶はそうかもしれないが、
 岩茶ならどうか。


Img_3210

 左は、大陸の朱泥茶壺。岩茶とか鳳凰単叢を淹れるのに使っています。
 右は磁器の茶壺。
 淹れるのは岩茶、極品肉桂。

 さきほどと同じ要領で淹れてみます。
 今度はほぼ、注ぎきるスピードも同じ。

 なのに、水色こんどは磁器の茶壺のほうが濃いのです。

 「あら、なんだか磁器の方が苦みがつよいわぁ」
 「ほんと、でも美味しい〜」
 「これ、別々に出されたらどっちも美味しいわぁ」
 「シナモンって感じはしないけどねぇ」
 「いやぁ、おいしいわぁ」

 ほんとに美味しいお茶だったので、何で淹れてもうまかった。
 でも、やっぱりちがうんですなぁ。

 磁器の茶壺は、いいとこも悪いとこも味も香りもぜんぶまっすぐに出す感じ。
 朱泥のほうは、まあるく入る感じ。

 たとえば、香りが命の鳳凰単叢なんか淹れる時には、好みが分かれるだろうなと思う。
 


 蓋碗という茶器もある。素材は磁器が多い。

Img_5517

 これはまた、茶壺とは淹れる感覚がぜんぜんちがうものだと思う。

 湯を注いだら、蓋をとって中の水色を見る。
 刻々と、抽出され色が変わっていく。
 ほんとに、数秒のちがいで味が香りが変わる。
 さらには、湯の注ぎ方、蓋碗の倒し方(出し方)でも変わる。

 目指す味に淹れようと2煎、3煎と淹れるがうまくいかず、
 先生が代わり、そこにそーっと湯を落とすと、まるでちがう茶のように入った、
 あのアメージングな感覚が残っている。
 難しいとも言えるし、自由自在に淹れることができるとも言える。

 ここには紫砂とか磁器とか、そういうこととは違う
 ひとつの技があるように思う。
 自分の思う「うまい」を確実に淹れるのはこちらなんだろうなぁ。
 
 でもわたしは、何度も湯をくぐった紫砂や朱泥の茶器を
 なでたりさすったりするのが好きなのだ。
 うまさって、そういう愛しさも含みますよね。

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