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2013年6月

2013年6月27日 (木)

『爆笑サイエンスカフェ⑧』【生きる科学力】

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2013年6月13日(木)付中国新聞朝刊・文化面掲載
※中国新聞社に転載の許諾を得ています。

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(下記は自分の中での最終版。掲載文章とは若干ちがいます)


『爆笑サイエンスカフェ⑧』 【生きる科学力】 寺本紫織

 足掛け5年もサイエンスカフェのファシリテーターをやっていれば、門前の小僧並みに少しは科学が語れるようになったのではと思われるかもしれない。それは華麗なる誤解であって、毎回未知の内容にびっくりしたり困惑したりの繰り返しだ。サイエンスはとんでもなく広くて深い。

 しかし、今までなんとなく敬遠していた科学の世界だったが、それは人生の損失だったかもと思うようになった。ええっ?知らなかった、へぇ〜実はこうなっていたのかと、ひとつ知れば新しい目が開いて、仕事の、暮しの、いろんな場面が今までと違って見えた。自分がこの歳で進化する、それは新鮮な歓びだった。

 普段の生活は、ボタンひとつ、クリックひとつで済む。そこにどんなサイエンスやテクノロジーがあるのか知らなくても、快適に暮らせる便利な世の中だ。だけど、とくに東日本大震災からこっち、科学と無縁で暮らすことができなくなったなぁと感じる。だれかよくわかる人に任せておけば大丈夫、な世界ではなくなった。専門知識を身につけるまで至らなくても、だれがまともなことを言っているのか、これはうさんくさいぞとか、“嗅ぎ分ける力”が必要だ。そういうのも科学的なセンスだろう。

 サイエンスに関係しない人生なんかない。理系文系を越えて、生きて行くのに欠かせない力だと思う。だったら、楽しみながら親しみたいですよね。
 ということで次回サイエンスカフェは「科学と芸術のカエル三昧〜新種発見、そして遺伝子音楽」スペシャル版ですよ。6月15日(土)中国新聞ホールにて開催。
 ぜひ、一度、お越しください! 
http://home.hiroshima-u.ac.jp/sciyugo/scicafe/
【おわり】

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 この、第22回サイエンスカフェ「科学と芸術のカエル三昧〜新種発見、そして遺伝子音楽」話し手の三浦先生に

「毎回、楽しませて頂きました。
 途中から少し気になっていたのは、
 各先生方の紹介はよいのですが、
 このまま、緑地帯もファシリテーター寺本で終るのだろうか、
 という点でした。
 なにせ、寺本さんの緑地帯ですからね。

 でも、最後にご自身の思想がしっかり聞けてよかったです。
 ご苦労様でした。」

 とメールをいただいた。

 サイエンスカフェ、3ヶ月に1度ペースで、気がつけば5年もやってるんだなぁ。
 いろんな思いが走馬灯のように・・・
 
 寺本をおもしろがって、それは才能ですと認めてくれて、引き立ててくださった先生方のおかげで、「そうか」と自分自身が腑に落ちた。そして、瞬間的に、なんで?と思ったことをその場で出す瞬発力を磨こうと思った。
 
 おもしろがってもらえたらいいなぁ、と思う。
 ありがとうございました。

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2013年6月26日 (水)

『爆笑サイエンスカフェ⑦』【進化するカフェ】

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2013年6月12日(水)付中国新聞朝刊・文化面掲載
※中国新聞社に転載の許諾を得ています。

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(下記は自分の中での最終版。掲載文章とは若干ちがいます)


『爆笑サイエンスカフェ ⑦』 【進化するカフェ】  寺本紫織

 10人の科学者がいれば10の研究スタイルがある。なかでも素粒子物理学者の高橋徹先生はいつも冷静、かつ、客観的判断が際立っていた。

 サイエンスカフェ終了後は妙な高揚感があり万々歳なのだが、高橋先生は「来場者目線」で見逃さない。入念な下準備、見え方への心配り、今まで気付かなかった不具合が改善され、「出し物」としての完成度に磨きがかかってきた。

 さらに、ツイッターでの実況中継や、クリッカーという来場者の回答その場で集計システムの導入など、新し物好きな先生のおかげでどんどん進化している。

 「ヒッグスらしき素粒子発見」という大ニュースが飛び込んできた時のこと。いつもは冷静な高橋先生も血湧き肉踊った一人だった。「緊急カフェやりましょう!」
ということで広島市中区の「銀山ベース」さんご協力のもと電光石火の勢いで「サイエンスパブ」開催。肩寄せ合うように集まった人々が素粒子話で盛り上がった。

 さらに「ちっちゃいサイエンスカフェ」を西条「くぐり門珈琲」で開いた。あの高橋先生がなんと手ぶら。パソコンも資料もなし。珈琲のうまい店に科学者がふらっとやってきて、そこに居合わせた市民とざっくばらんな会話が始まる、そういう本来のサイエンスカフェみたいだ。
 
 筋なしでも会話はどんどんドライブし、参加者も次々と質問。素粒子の世界は超難解だ。すぐ人類の謎にぶちあたる。だけど、わからない雲の切れ間から「あ!なるほど!」が差し込む瞬間もあるのだ。

 高橋先生はとても楽しそうに、豊かな言葉で話し続けた。小さなテーブルを囲んだ人々が広げた想像力は熱を持った。サイエンスの対話を堪能した2時間となった。

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2013年6月25日 (火)

『爆笑サイエンスカフェ⑥』【科学はライブ!】 

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2013年6月11日(火)付中国新聞朝刊・文化面掲載
※中国新聞社に転載の許諾を得ています。

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(下記は自分の中での最終版。掲載文章とは若干ちがいます)


『爆笑サイエンスカフェ ⑥』 【科学はライブ!】 寺本紫織

 「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられるイグノーベル賞を2度も受賞した小林亮先生が「計算するアメーバの不思議」と題して話した第19回のときのこと。下見の際、床のケーブルや見え方に的確な指示を出す先生にスタッフは目を丸めた。「そんなん、ライブやってたら当たり前やん」そう、小林先生はギターを抱えた科学者なのだった。

 各地で何度もこのネタで話し、どこで観客の笑いを誘うか、まさに計算された講演はお手の物だったが、「今回はピン芸じゃないし、落語家が漫才やるようなもんやで」そうですねぇ・・・「まあ、なるようになるやろ、やってみよか」ということで本番。

 予定していた会場がアクシデントで急きょ大会議室に変更になったが、スタッフの適応力により、長机にパパッとテーブルクロスが掛けられ、たちまち心地よい雰囲気になった。多くの方が来場し、飲み物片手にくつろいでいる。さあ、楽しいサイエンスの時間ですよ。

 スライドを見ながら話し始めると、先生が寺本の言葉をよく聞いてくれているのに気がついた。いつもなら噛み砕いて説明するところを、ポイッと投げて寺本に拾わせた。二人の掛け合いがいい感じでリズムを刻みはじめた時、来場者の興味がぐっと前のめりになるのを感じた。

 後日「ここでこうきてほしいなぁ、というところで必ず期待通りに絡んでもらえて、とても調子がよかったです。また次のカフェが楽しいライブになることを祈っています」とメールをいただいた。あまりに調子がよくて、とうとう小林先生とほんとのバンドを組むことになったのだが、それはまた別の話。

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2013年6月24日 (月)

『爆笑サイエンスカフェ⑤』【知りたいがスパーク】 

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2013年6月8日(土)付中国新聞朝刊・文化面掲載
※中国新聞社に転載の許諾を得ています。

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(下記は自分の中での最終版。掲載文章とは若干ちがいます)


『爆笑サイエンスカフェ⑤』 【知りたいがスパーク】  寺本紫織

 第17回「サイエンススコープ〜科学者が見ている世界」では異分野の科学者がリレーで話をした。
極小の素粒子から極大の宇宙までを2時間で旅する。どこまで話をして次の話者に渡すのか、6人の科学者が集って打ち合わせをした。

 広島大学理学研究科には6つの研究分野がある。聞けば、会議以外で他分野の教員と顔を合わせる機会はほとんどなかったが、サイエンスカフェに集うようになってある変化が生まれたという。

 今回もそれがスパークした。各先生は自分の研究分野以外は実は暗いと白状しながらも、ほかの科学者の話に触発されて疑問がむくむく広がり、新しい知見を得ようと興味の触手をぎゅぎゅ〜んと伸ばすのだ。ある先生はアイデアノートを引っ張り出し、違う角度から照らされて気付いたヒントをざざざーっと書き留めていた。こういうときの科学者の貪欲さ、超かっこいい。みんな夢中で話し、お宝ムダ話がいっぱいころがった。ああ、「サイエンスカフェマラソン」って感じでずーっと聞いていたい。絶対おもしろい。

 こんな会話もあった。「それにしても、全宇宙のたった5%しか解明されてないなんて、あと少しで全部わかる!と思っていた科学者はがっかりしたでしょうねぇ。私なら宿題やっと終わった!と思ってドリルがもう1冊残ってたりなんかしたら絶望しますけど」「原子を見つけただけで世界の謎がとけると思っていた時代から、科学なんてそれの繰り返しですよ」
うーん、科学の進歩ってのは「わからない」領域をひろげる歴史だったんだなぁ。「ハテナは、最高の歓びである!ですよ」と先生はにっこりと笑った。

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2013年6月23日 (日)

『爆笑サイエンスカフェ④』【前人未到をのぞく】

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2013年6月7日(金)付中国新聞朝刊・文化面掲載
※中国新聞社に転載の許諾を得ています。

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(下記は自分の中での最終版。掲載文章とは若干ちがいます)


『爆笑サイエンスカフェ ④』 【前人未到をのぞく】 寺本紫織

 サイエンスカフェの来場者は、科学への興味が強く知識も深い。と思ったら、中学校で習った理科さえすっかり忘れてる自分みたいな方も結構おられる。小学生から80歳過ぎまで実に様々。だから理解度もぜんぜん一様ではないが、できれば多くの方に「おもしろかった!」と帰っていただきたい。

 難しい部分を削った「お茶の間科学」も確かに楽しい。でも、その「難しい部分」こそ最先端科学の醍醐味。「なんかよくわからんけど凄い」という感動もあるのだ。

 それは、第11回「葉緑体にあいた穴」で古本強先生が世界初の成果を出した瞬間の話を聞いた時だった。「葉緑体の包膜に存在するピルビン酸輸送体分子」というさっぱりわからない話を「え、ATP知らん?そっからか・・・」と絶句しつつ、熱心に丁寧に順を追ってわかるように話してくれた。そんなん常識やということをホンマなんやろかと疑い、自分の考えを信じて10年。その実験結果が出たとき、歓喜のあまり叫びましたか?

 「いや、それまでの百ある実験の失敗の後だけに、まずこれはウソやろうと思いましたね。あと3回やってこの結果だったらホンマやと思おうと思って、2回目、やっぱりでた、3回目、大丈夫、4回目・・・・ぽろっと涙がひとすじ流れました。案外、静かなもんなんやなーって思いましたね」

 科学者のエネルギー源は「知りたいという欲求と、知ることで得られる感動、ワクワク感」だという。まだ誰も知らない世界を、初めて見たときのゾクゾクするような感覚、生きていてよかったと思うこと。科学者の語りに伴走するサイエンスカフェでは、そういうのを肌で感じることができる。

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2013年6月22日 (土)

『爆笑サイエンスカフェ③』【爆笑の化学変化】

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2013年6月6日(木)付中国新聞朝刊・文化面掲載
※中国新聞社に転載の許諾を得ています。

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(下記は自分の中での最終版。掲載文章とは若干ちがいます)


『爆笑サイエンスカフェ③』 【爆笑の化学変化】 寺本紫織

 サイエンスカフェのファシリテーターを引き受けたのはよいが、ファシリテーターって何?というところからのスタートだった。ファシリテーターとは理解促進者、つまり司会より一歩踏み込んだ役割を担うものらしい。

 これがなかなか難しい。

 そもそも科学者は、国内外の論文発表や講演会などで持ちネタを話すのは慣れている。資料や写真をスライドで示し、立て板に水で話されると、話の腰を折るのもなぁと、まるでテニスの観客のように首を左右に振って終わった回もあった。

 寺本をスカウトした寺田先生が第10回「地球誕生の秘密」について話した時のこと。ふんふんと調子よく聞いていたが、だんだん腑に落ちなくなってきて、疑問が口をついて出た。何を尋ねたか覚えてないが、ふつうの大人なら恥ずかしくて聞けないようなことだったと思う。あまりに唐突で虚を突かれた先生は絶句した。答えに困ってうーんとうなる科学者とのやりとりに、会場からどっと笑いが起こった。その瞬間「姿勢を正してえらい先生の話をありがたく聞く」という感じから「なにこれおもしろい」に雰囲気ががらっと変わったのだ。

 「寺本さんは科学者がなんぼのもんじゃいと思ってるでしょう、そこがいいんです。もっと突っ込んで聞いてこそですよ」と寺田先生は言った。めっそうもない。人生を捧げて研究に邁進する科学者には、本当に尊敬する。だけど、知りたい気持ちと伝えたい想いに上下の差はなく、いつも等しく向き合えると思う。だったら寺本はその間に立ち、ユーモアと好奇心で「難しくってわけわからん」に斬り込み、「へぇ〜、おもしろい!」に変えたいと思う。

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2013年6月21日 (金)

『爆笑サイエンスカフェ②』【スカウトされる】

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2013年6月5日(水)付中国新聞朝刊・文化面掲載
※中国新聞社に転載の許諾を得ています。


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(下記は自分の中での最終版。掲載文章とは若干ちがいます)


『爆笑サイエンスカフェ②』【スカウトされる】 寺本紫織

 数年前、広島大学の広報の仕事をしていた時のこと。何千人といる教員を学内外に順次紹介していく広報誌を発行することになった。

 その取材で、理学研究科のある先生と出会う。月の進化モデルの再考を促す重要な発見をしたとして、文部科学大臣表彰「科学技術賞」を受賞された寺田健太郎先生だ。最先端の研究についてインタビューした。

 今まで興味も接点もないはずのサイエンスの話が、それはそれは面白かった。へえ!すごい、先生それは一体何なんですか、どうしてなんですか、小学生のような好奇心を弾ませて聞いた。難しい言葉がわからなければ、それはつまり例えばですね、と言い換えてもらって理解できた。知らないことを知るってのはこんなにワクワクするものなのか。

 先生がサイエンスの魅力に心を奪われたのは、高校の物理の授業だったという。「ボールを投げたりリンゴが落ちたりってことと、太陽の周りを回る惑星や彗星が全く同じ物理法則で支配されているなんて、なんて美しいんだ!って感動したんです。宇宙空間でたまたま地球ができ、地球にだけ海が長時間存在し生命が栄えてきた。ね、不思議でしょう、だから太陽系の起源と進化の謎を解き明かしたいんです」と。

 知ることで感動し、それが人生の機動力になるんだねぇ、すごいなぁと思いながら、「あの先生、太陽系の中に銀河ってあるんでしたっけ?」と尋ねた。頭を抱えて椅子からずり落ちる先生が見えた。

 後日、この寺田先生からサイエンスカフェの司会をしてみないかとスカウトされたのだった。常識を疑うのが生業の科学者とはいえ、こんなの起用するなんて度胸あるよねと思った。 


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2013年6月20日 (木)

『爆笑サイエンスカフェ①』【科学を愉快に】

 中国新聞「緑地帯」に、サイエンスカフェについてのコラムを書いてみないかとお誘いを受けた。
 
 「緑地帯」といえば、大学卒業してすぐつとめた広告会社の先輩で、「明和電機」のマネージャーになったGさんも連載していたコラムだ。
 「明和電機のある生活」というそのコラムは、くつろいでいて、軽妙洒脱で、さすがGさんと嫉妬しつつすごいなと思って切り抜いて今でも持っている。
 そこに書かせてもらうのかー、と感慨にふける間もなく書いては先生方に査読をお願いし、訂正し、文字数をがーんと減らして書き直し、新聞社校閲校正が入り、訂正訂正削ってやっとこさ掲載してもらったのであった。

 せっかくなので、転載許可をいただいてアップしておこうと思う。

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2013年6月4日(火)付中国新聞朝刊・文化面掲載
※中国新聞社に転載の許諾を得ています。

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(下記は自分の中での最終版。掲載文章とは若干ちがいます)


緑地帯     
『爆笑サイエンスカフェ ①』 【科学を愉快に】  寺本紫織

 「サイエンスカフェ」をご存知だろうか。コーヒー片手に、市民と科学者がくつろいだ雰囲気の中で科学について気軽に語り合う場のことである。1997 年頃、イギリスとフランスで同時発生的に行われたのが起源なのだそうだ。日本でも2004年頃からその活動が徐々に広がりを見せ、今では全国で様々なサイエンスカフェが開かれている。

 広島大学理学研究科でも、「“理が苦”から“理楽”へ」という思いのもと、授業や講演会とは違う「科学を題材にコミュニケーションする空間」を演出したいと有志が集まり、2007年12月から「広島大学サイエンスカフェ」を開始。約3ヶ月に1度、カフェや大学病院のレストラン、高校の食堂などで計21回開催し今に至っている。

 さてみなさんはそんな「サイエンスカフェ」に行ってみたいと思うだろうか。科学講演会やシンポジウムよりは若干敷居が低い気もするが、そもそも「サイエンス」なんか縁がないよね、そう思われる方が多いのではないかと思う。だって自分がそうだった。大学では日本文学専攻、仕事は広告のクリエイティブディレクター、バリバリの文系でサイエンスのサの字もない人生を送ってきた。たとえコーヒー片手にくつろいでいたとしても、隣の科学者と一体何の話をしたらいいのか見当もつかない。

 そんな寺本が今、サイエンスカフェのファシリテーター(司会進行)をつとめている。実に理不尽。一体何があったのか。しかし片足を突っ込むことになって初めてわかったことがある。「えー、難しくってわけわからん」の壁から中をのぞいてみると、そこには実に豊かで美しい世界があるということだった。

(広島大サイエンスカフェ ファシリテーター=広島市中区)


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