宇宙という書物は数学の言葉で書かれている。
広島大学理学研究科サイエンスカフェ「太陽系ができるまで〜100億年の物語」でした。
昨年の12月、「星と元素と宮沢賢治」のときに、大阪大学の赤い彗星こと寺田健太郎先生が飛び入り参加、「宇宙の元素はどうやってできたのか」の話をされた。
その感想をツイッターでつぶやきあっていると
「私はいつかジョイントをやってみたい。宇宙のはじまりから太陽系ができるまで、、、間がかなりとぶけど」とつぶやかれたのが高橋徹先生。
寺田先生「いいですね!いいですね! 実は私もそう思っていたところです!前半は高橋先生にビッグバン(素粒子、H,He,Liまでの元素合成)をお願いし、後半、私が銀河の化学進化(星の進化の元素合成リベンジ+大規模物質循環)〜太陽系の誕生まで100億年をカバーというのはすぐにでもできそうな企画ですね」
高橋先生「うっ、私はH,He,Liよりもはるか手前(核子もまだできてないころ)が本業としてのカバー範囲ですが、どうして宇宙にHがこんなに残ったのかなど、興味があるのでやってみようかなと思います」
寺田先生「了解です。高橋先生にHまで作っていただけると、あとは核融合と中性子捕獲反応でUまで作ります」
隅谷先生「神様の会話のようです・・・」
ということで日程調整に入り、今回の開催に至ったのでした。
告知をしてみてびっくり、定員の40名をはるかに越えて、120人あまりの方にお申し込みいただいた。
午後だけではとっても収容しきれないので、午前中に理学融合センターにてスピンオフサイエンスカフェを開催することになりました。
せっかくの機会なので、ファシリテーターを学生さんにやってもらおうということに。
そもそも理学部の院生さんですから、高校物理のテストを毎回3点で提出していた寺本とつくりがちがう。
科学の素養がある人の疑問とか質問ってどんなんだろう、と興味深く楽しみにしていました。
OさんもKさんも上手でした。寺本の出る幕なかった。会場からも活発に質問が出て、科学者と気軽に語り合える本来のサイエンスカフェに近かったんじゃないかと思いました。
寺田先生は途中、ホワイトボードに向かって数式をわーっと書き、答えを導き出していた。
科学者はああやってものを考えるんだなぁ。
スライドにもたっくさん数式がでてきた。しかしさっぱりわからない。
午後のファシリ(司会)をする寺本はあわてて寺田先生に言った。
先生、数式が難しくてさっぱりわかりません。
この模様とか、意味がわからん。
「え!これ? これは・・・と比例するっていう意味なんだけど・・・じゃあこれなら分かる?」
と = や ÷ という見慣れた記号に書き直してくれた。
まー それならなんとか・・・
「でもね、言葉で説明するより、数式が一目瞭然というか、あらゆることがこの数式で記述できるんですよ、それってとってもエレガントじゃないですか!」
ははぁ・・・エレガント・・・・イエス。
数学というよりも算数で挫折した寺本には、足し算割り算の数式ですらしんどいものがあるのだが、
「ほらね、Heの4がぺたぺたひっついていくっていう式ですよ。だから質量数4の倍数の元素が圧倒的に多いんです」
あ、なるほどー。毛嫌いして、理解しようと見てなかったんだなぁ。
午後からのサイエンスカフェは寺本が100億年をナビゲート。
高橋先生は、まるで物理演算されているかのようなパワーポイントのアニメーションを駆使し、どんな本を読んでも2秒で眠くなる素粒子の世界を、わかりやすく、イメージしやすく説明してくれました。
10のマイナス36乗秒とかいう非日常な世界。
「はいここから水素原子ができるまで38万年待ちます」・・・タイムスケールが・・・くらくらする。
そして「水兵リーベ」のリーくらいまでできた「ビッグバン元素合成」から、寺田先生にバトンタッチ。
Liより重い元素は星の中で作られる。だけど、星の質量でできる元素がほぼ決まってる。
F鉄より重い元素は「中性子捕獲反応」でできる。
100秒くらいの間に、パクパクパクパク〜〜〜っと中性子を食べて、ぼこぼこぼこぼこ〜〜と斜め45度に崩壊して新しい元素になる。
「つまり、出会い系サイトみたいなものでね、中性子がいっぱいあると出会いやすいわけです」
という寺田先生捨て身の比喩で理解も一挙に促進。
わたしたちの太陽系が満を持してできあがったのでした。おもしろかった。
それにしても。
「宇宙という書物は数学の言葉で書かれている」
と、ガリレオは言ったらしいけど、そうなんだなぁ。
反省会(打ち上げ)で、先生同士が好き勝手に興味ある研究の話するところが聞いてみたいです、と言ったら、
「それこそμだのΔだのψだの、記号数式だらけの会話ですよ」と高橋先生。
科学者の日常言語はそういう異世界語なんだ。サイエンスカフェでは、わかりやすい日本語に翻訳してしゃべってくれているんだ。
だけど、科学者自身が最も興味のある、これが不思議、これが面白い、というのは、ほんとはわかりやすい日本語には翻訳しがたいものなのかもしれない。
そこには、数学がわからないと迫れない。
◇
翌日、息子とぽてぽて歩きながら話した。
「かーちゃんさー、算数だいきらいだったんだよ。計算は電卓ですりゃあいいじゃないかと思ってたんだよ。だけど、算数できないと、わからない美しさってのがあったんだ。
ちょびはさー、算数とくいなんだからさ、そういう美しさがわかるようになったらいいよね」
「ふーん、算数のうつくしさ・・・
パパちゃんはそのうつくしさわかるの?」
「パパちゃんは美容師さんだから、ちがう美しさを知ってる。鋏や指先で美しさをつくりだしてる。
かーちゃんは・・・」
「お茶でしょ、お茶がうつくしいんでしょ」
「あ、うん。そうだね。お茶の中に美しさを見てるかもしれないねぇ。
科学者が見ている美しさ、かーちゃんも見てみたかったなぁ」
数学は美しい、というのはよく聞く。
なんのご縁か、
この11月に「サイエンスアゴラ」のシンポジウムで、数理科学者のお話の聞き手をさせていただくことになった。
にがて、とか、わからん、とか
逃げてないで勉強しろという、神様の宿題なんだろうと思う。
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コメント
あと、科学者どうしの会話には、英単語がいっぱい混じるのも特徴ですね。それに日本語には少し違う意味で入っているのを、元の意味で使ってたり。。例えば、ユニーク=唯一の (面白おかしいという意味はない)、ナイーブ=無邪気な、未熟な(否定的な意味。可愛らしいとう感じは入らない) 「ナイーブには、ユニーク ソリューションかな。。」(単純すぎるかも考察かもしれないけど、答えは一つに定るのかな)
投稿: 高橋 徹 | 2014年8月 8日 (金) 23時21分
高橋先生 日本語英語しか知らないから、「神経質な人には面白い解決策かな」くらいに平気で誤訳する自信があります。 科学者同士のガチな会話って、きっとちんぷんかんぷん・・・(苦笑)
投稿: | 2014年8月 8日 (金) 23時59分