わかることのふしぎ(その1)
息子が説明する。
「あの、ケモノが出てきて、吹雪の中で、高校生みたいなひとたちが、うおーっていうやつ」
さっぱりわからない。
よくよく聞くとこれだった(音が出ます)
http://www.youtube.com/watch?v=Re9WQKhMfjo
カップヌードルがたべたい、という趣旨だった。
だいぶん前のCMだけど、覚えてる。
就職氷河期ね。圧迫面接ね。かめばかむほどね。
SINCE1993
自分が就職活動をしたその年が、
はじめてそう名付けられた年だった。
しかし息子は「就職氷河期」を知らなかった。
リクルートスーツは制服に見えたらしい。
腹が減っては戦えないという、このCMの企画意図をまったく理解せず、「ケモノが出てきて、吹雪の中で、高校生みたいなひとたちが、うおーっていうCM」として認知していた。
体験してないと、理解できないのか。
育ち盛りハラ減り盛りの高校生たちも、だいたい「ケモノが出てきて、吹雪の中で、スーツ着たひとたちが、うおーっていうCM」として眺めてたのかしら。
自分が経験してないことは、理解できない。
死んじゃうってどういう感じ?というのが究極で、
だれも教えてくれる人がいない。
みんな死んじゃってるから。
そこまでじゃなくても、
働くってどういうこと?
結婚てどうなの?結婚してよかった?
子ども産んでどうだった?
肉親を亡くすってどういう感じ?
知らないと、聞いてみたくなる。
答えは100人100通り
経験した人からいくら話を聞いても、
やっぱりよくわからない。
だから
経験済みの人が未経験の人に、
いくら口を酸っぱくして言ったって
ほぼ伝わらない
そう思っておいた方がいいなあ。
今度、10/10(金)、広島大学理学部の学生さんたちに、講師としてお話しする機会をいただいた。
生物科学専攻の「社会実践生物学特講」というカリキュラムで、90分間。
「広く社会で活躍されている方々に幅広い経験等をご講演いただき、生物科学博士課程前期の学生に、専門分野を越えた社会で広く役立つ実践的知識を身につけてほしい」という趣旨だそうだ。
快諾したものの、後日送られてきた講師一覧を見てひるんだ。
あきらかに、異生物だ。
(だから生物学的におもしろいのか?)
講演テーマも「後悔を少なくする人生の作り方」などとふざけたテーマは他にみあたらない。
もうすでに後悔。
学生さんたちに有意義な、実践的知識を教授することなんか無理だ。
反面教師寺本と呼んでくれ。もうそれしかない。
なにを話そうか、ぼんやり考えているけれど
息子が就職氷河期を理解できなかったように、
学生さんたちも、
このおばさんの言うことが理解できないだろう。
ふーん、けったいなおばさんようしゃべるな、くらいのものだろう。
だけど、経験者から聞いた話というのは不思議なもので
それは時限爆弾みたいに作用することがある。
ああ、あのときあの人が言っていたことって、
こういうことなのか
という形で、後日理解される。
それでなんかの役に立つのかは、
その時になってみないとわからない。
わたしの話も、耳の底に残ったいくつかが、
誰かの「ああ!そういうことか」のお役に立てたらいいな。
今、ちょっと先を歩んでいる人生の先輩である親が
年をとるってこういうことよ、と、
こんこんと話して聞かせてくれている。
ああそう、たいへんねと聞き流しているけれど
いつか、親をあの世に見送り、ずいぶんたって、
「ああ、おかあさんが言ってたわ、
年をとるってこういうことね」と
わかる日が来るんだろうと思う。
わかることのタイムラグ。無駄じゃない。愛おしい。
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